ロード中...
トップ画像

鳥取を代表する、南部町の富有柿で始まる休日のひとコマ
 

やわらぐ   たのしむ   試す  
2021.11.24

つい先日、立派な柿を頂いた。鳥取県南部町の名産、富有柿である。
贈答品の「特別なる柿」を目にすることも初めての私。すぐに手を付けることがなんだかもったいなくて、何日か大切にとっておいた。そうして数日経った、休日の朝。この柿をメインにした、特別感ある朝の時間を過ごしたく、満を持して頂くことにした。

良く晴れた秋の朝。ダイニングテーブルには、燦々と朝の光が降ってくる。
少々の緊張を持ちながらも、綺麗な富有柿とのご対面。
普段から果物をむいたりすることがない私、恐る恐るカッティングを試みる。四苦八苦しながらも切り終えた後は、柿のオレンジ色が映えるお皿を探して、これまた、恐る恐ると盛り付ける。
そして。
ここで、この特別感いっぱいの、富裕柿の瑞々しさとか美しさとかを収めたくて、キッチンに差し込む朝の光を受けながらの、記念撮影。

鳥取県南部町の富有柿鳥取県南部町の富有柿

どうだろうか・・・?
オレンジ色、というより「朱色」と呼びたい、色彩の美しさとか甘い香りとか、諸々、伝わるだろうか・・・?

特別なる柿の、しばしの記念撮影の時間も楽しみつつ、そしてフィナーレだ。
いよいよ口に運ぶ、艶ツヤの富有柿。

あぁ、至福。柿の王道の味わい、って感じだ。
適度にシャキッとした果肉の硬さと、すっきりとした甘さが私好みでちょうど良い。思わずひと口ふた口、と進む、すすむ。

「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」

唐突に、昔覚えた正岡子規の句が頭をよぎったりして、なんというかぼんやりと(懐かしいなぁ・・・)という思いが膨らむ。何がどう、懐かしいのか、不明ではあるが。古い記憶がぷかっと浮かぶ、確実に、いつもとは違う休日の朝。

さて。この美味なる富有柿タイムをきっかけにして、有名すぎる俳句を詠んだ、正岡子規のことを調べてみた。
そしてまったく知らなかった、かの歌人の、柿に対する深い思いを知ることになる。
彼は随筆「くだもの」の中で、果物全般がいかに好きかを、熱く語っているのだが、果物の中でも柿を特に好んだようである。その証拠に、先の句のほかにも「柿」を詠んだ句を多く残している。
そしてそれらの中で、私が最も感銘を受けた句が、ひとつある。

「柿食ヒの 俳句好みしと 伝ふべし」

この意味は、「柿が好物だった男は、俳句も好んでいたと言い伝えてほしい」というものだそうで、この句を知った時は、静かな感動で胸を打たれた。あるもの(ここでは柿になるが)への愛情を、こんな風に表現できるなんて・・・。ちょっと涙が出た。決して直接的でなく、ユーモアがありながらも人の心を掴んでしまうような、粋な日本語表現ができるような人に、憧れているからだろうか。この句を知れて、嬉しかった。

日本でも、贈答品として重宝される、鳥取県南部町の富有柿。なんと、海外にも多く輸出され、日本以外の食卓も彩っている。私が面白いと思ったのが、柿の輸出先として一番多いのが「タイ王国」いう点である。ほかにも海外輸出されている果物、梨やシャインマスカットたちは、香港、台湾などが多いのだが、なぜ柿だけはタイなのだろうか??がぜん興味が湧いた。

そして調べてみて分かったのが、タイには「サポジラ(タイ語ではラムット)」という果物があり、それが柿の味に似ているからだという。つまり、タイの人達にとって、柿は馴染みがある味ということらしい。南部町の富有柿が、海を越えてタイの人達に喜ばれている様子を想像するのって楽しく、そして嬉しいものだ。

私は、タイの果物、サポジラを知らないが、日本の美味しくて麗しい柿を知れていて幸福だな、と思う。しかも、贈り物にふさわしいような、贅沢な果物を頂いて、秋の朝を楽しんでいる。さらには、この果物を愛してやまなかった歌人に思いを馳せる空想の旅にも出かけていける。

今日も、空は青い。南部町で丹精込めて育てられた柿に、幸せをいっぱいもらった休日に乾杯。

 

活まち書店・店員M

【画像出典】
「富有柿」全農とっとりアグリマーケットHPより
https://www.jan-agri.com/product/autumn/fuyu/