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郡内織のイベントで、日本の伝統工芸の美意識をイシキした
 

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2022.1.12

昨年の9月中旬、活まち大学にて『江戸の粋を支えた織物「郡内織」の歴史と伝統産業のこれから ~富士みちの宿場町 つる~』というイベントが開催された。これは、江戸時代からの歴史を持つ、伝統工芸「郡内織」を、今そして未来へとつなげていこうとする方々が登場し、それぞれが持つ「郡内織」への想いに触れることができたイベントであった。
活まちで、このイベントの企画を見た時点で、私は(とても素敵なイベントだな)と思ったのだが、それには、伝統の織物が美しい「傘」となって登場していたことが大きかったと思う。

江戸の粋を支えた織物「郡内織」の歴史と伝統産業のこれから ~富士みちの宿場町 つる~

なぜなら。
極めて個人的な話となるのだが、以前私が沖縄に住んでいた時、このイベント出演者の皆さんのように、伝統工芸への想いを大切にしながら活動を続けている方たちの作品展で、素敵な日傘を購入したことがあり、そのことを思い出したからだった。

沖縄の陽射しは本当に強烈で、日傘なしでは5分と歩けない(個人的感覚である)のだが、その日傘は黒地に華奢な織りの美しさが魅力的で、毎日のように活躍してくれた。傘を開くたび、傘越しに陽射しを受ける間、そしてその傘をそっと閉じるたび、と、日に何度も何回も(美しいなぁ、可愛いなぁ)と、うきうきと踊るような心持ちであったことまで思い出したのだ。
そう。郡内織にまつわる、活まちのイベントをきっかけにして、日常の身の回りに、美しくて可憐なものを置くことの、丁寧な気持ちを思い出したのだ。

そんな、大好きな傘を思い出させてくれた、幸せなきっかけをくれた「郡内織」のことに興味が湧き、日本の織物について、自分なりに調べてみた。
今回、私が日本の織物を調べる際の参考とさせてもらったのが、北村哲郎氏の「日本の織物」という書である。

まずはもちろん、「郡内織」である。
郡内織とは、富士北麓地方を「郡内」地域と呼ぶことから、その地域にて盛んだった、絹織物を郡内織というらしい。郡内織、という名称のほかにも、昔からの名称としては「海気(かいき)」というものがあり、明治時代より、その名を「甲斐絹(かいき)」と表わすことが主流となったようだ(この「日本の織物」のなかでは、「甲斐絹」として紹介されている)。
「かいき」の字を変えたのは、初代の山梨県令だった藤村紫郎氏で、甲斐地方の特産とすべく、それらの字を宛てたという。この名も粋だが、もともとの「海気」という言葉の由来も、知るととても素敵。もともと、遠い異国のインドなどから海を渡ってきた織物だったこと、そしてその織物の色が、光の反射具合によって玉虫色に見える、その様子が、陽の光を受けた海の水面がその色を変えて見せるのに似ていたから、ということで「海気」。
なんというか、昔の人の洒落とセンスを感じてしまう。

そしてそして。
伝統工芸である、日本の織物について調べ、さまよっていたら、これまた素敵な一冊と出会った。西陣織の織屋「細尾」の十二代目である、細尾真孝氏が書いた「日本の美意識で世界初に挑む」である。

日本の美意識で世界初に挑む

この本は、どちらかといえばビジネス書というカテゴリーに入るのかもしれないが、本当に面白くそして刺激的な一冊で、あっという間に読み終えた。刺激的というのも、自分自身の感性とか仕事との向き合い方とか、日々の過ごし方までを一つひとつ揺さぶられるような言葉がたくさんあり、読みながら同時進行で刺激された言葉の数々をノートに書き写していったくらいだったからだ。
とりわけ、「美意識の育て方」の章については、ほぼほぼ、すべて書き写した。
そのなかで、美意識を育てる方法のひとつ目として挙げられていたのが、「美しい物を使う」であった。その時、読みながらもまたまた、可憐な日傘を愛用していた日々を思い出したのだ。
確かに、あの時、私は私なりにではあるが、あの美しい傘に美意識を育ててもらっていたのかもしれない。
そう思えるものたちに囲まれて暮らす毎日は、本当に贅沢で豊かともいえる。
余談とはなるのだが。その、私の美意識を育ててくれたであろう傘、ある時の強風にあおられて、傘骨を折ってしまい、泣く泣く、お蔵入りとなってしまった。でも本当に大好きで、沖縄の暑い夏をご機嫌に過ごさせてくれ、さらに数年後でも鮮やかによみがえるような「日常の可憐な思い」を生み出してくれた。感謝である。

これから先は、郡内織をはじめとする「伝統工芸」の美しさに触れながら、日本で大切に守られ紡がれてきた「美意識」を学び、いつかは自らが、「美意識」を伝播させうるような力を身につけたいと、願うのであるが。
それは、これから過ごす、毎日の日常が培っていくのだろう。

活まち書店・店員M