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麹の華さく豊前市で「発酵体験」してみませんか?
 

たのしむ   ならう   すごす  
2022.11.30

せっかく旅に出かけたなら、見るだけではない、ちょっと特別な「体験」がしてみたい。
そんな欲張りな希望はありませんか? それが、毎日の生活と健康に役立つものなら一石二鳥、旅の一番のお土産になること間違いなし。そんな体験が、豊前市にはあります。

〈150年の歴史を誇る老舗醸造元〉

今回ご紹介するのは、豊前市八屋にある『浦野醤油醸造元』さん(以下、敬称略)。江戸時代末期より、およそ150年にわたり、醤油の製造を続けてきた老舗です。現在は、6代目の若女将である浦野敦子さんが、当主のご主人とともに切り盛りをしています。

歴史ある蔵造の店舗は、2021年に有形文化財指定を受けるなど、それだけでも一見の価値ある趣深い佇まい。この中で日々、職人の手により、醤油をはじめとする発酵食品の製造が行われていると聞くだけで、「伝統に培われたうまいもの」との出会いに期待が膨らみます。

現在の建屋は、1907年築の歴史ある蔵造で、日豊本線の開通に伴い移築された

「実は、福岡県は醤油屋県。全国で最も醤油屋が多い県なんですよ」と敦子さん。県内では小規模ながら、およそ100軒の醸造所が古くから受け継がれ、操業しています。「大きな醸造所が全国的にシェアを拡大する傾向にある中、これはとても珍しいことなんです」と続けます。

九州の醤油は一般的に、甘味があることが特徴。蔵ごとに異なる味わいは、そのまま家庭ごとの「うちの味」となり、代々受け継がれる風土があるといいます。

こうした環境のもと、地域に根差した醤油づくりを続けてきた浦野醤油醸造元ですが、味噌やつゆ、ドレッシングといった醤油以外の発酵食品づくりを5代目が開始。6代目となる現在は、甘酒が新たなラインナップに加わるなど、時流に合わせた変化を続けています。

〈新しい挑戦、発酵体験で心身ともにリフレッシュ〉

さて実際に店舗を訪れ、店内や並んだ商品を見ると、少し意外な印象を受けるかもしれません。

遠目にも目立つ蔵造、漆喰が塗られた重厚な外観に対し、1階の店舗は、実にモダンでおしゃれな空間なのです。醤油をはじめ、パステルカラーに色づくカラフルな「にじいろ甘酒」や、レトロでどこかかわいらしいラベルの貼られたお味噌などが目を引きます。

素材の色や風味をそのまま活かしたにじいろ甘酒(左)と麹の力みそ(右)

2021年からは新たな挑戦として、店内にカフェが併設され、発酵食品を用いたオリジナルメニューを提供する他、発酵食品づくりの体験が行えるようになりました。

その名も「発酵カフェ」では、保存用に加熱する前の甘酒を使ったスムージー「生甘酒」や、味噌プリンをトッピングに使った季節のパフェなど、発酵づくしのメニューを堪能することができます。「ちょっとやり過ぎたかな……」と敦子さんが漏らすほど、手の込みように驚かされる一品に出会えるかも。

カフェ内で参加できる「発酵体験」は、塩麹、味噌玉、味噌づくり(塩麹以外は要予約制)の3つのラインナップで、健康や美容にも役立つ発酵食品を、おうちごはんに取り入れる第一歩に。

発酵体験は、小さなお子さんでも楽しめます

塩麹づくりは、材料を混ぜ合わせるだけの簡単な体験ですが、店で仕込んだ生の麹を使うため、おいしさの違いに驚いたという感想も寄せられるのだとか。塩麹を使ったお料理教室なども、今後計画していく予定だそうです。

また、発酵のこと、麹のことなどのレクチャーを聞きながら行う味噌づくりは、仕込んだ味噌を自宅へ持ち帰り、じっくりと熟成させて仕上げます。「季節により熟成期間は変わりますが、リビングなどの暖かい場所に置けば、期間が短縮できます。楽しく眺めながら、3~5か月後には、旅の思い出とともにおいしく食べることができますよ」と敦子さん。できあがりが待ち遠しいこの時間も、楽しみの一つになりそうですね。

味噌づくり体験は、食卓の鍵を握る女性たちにも人気

ちなみに、浦野醤油醸造元のお味噌は、麹の割合が通常より多く、塩分が少ないため甘みがあることが特徴だそうです。

〈未来へつなぐ〉

こうした手づくり体験の実施は、実は今回が初めてのことではありません。カフェができる以前から、小学校や保育園、地域のイベントなどで発酵体験を提供してきたという浦野醤油醸造元。体験を通して、発酵食品の面白さ、おいしさを伝えていくことが、地域に根差した醤油の文化を守る鍵になるといいます。

浦野醤油醸造元が代々作り続けてきた醤油(紫印、亀印、甘口印)

「福岡県には以前、400軒を超える醤油醸造元がありましたが、現在は100軒ほどに減っています。それでも、小さな醸造元がそれぞれに蔵を守り、伝えていこうと奮闘しています」と敦子さん。福岡県で、多くの醸造元が仕事を続けられる背景には、「福岡県醤油醸造協同組合」の存在が欠かせないと話します。

協同組合では、醤油麹を塩水で仕込んで熟成させた諸味(もろみ)を絞り、醤油の元となる「生揚(きあげ)」を製造。県内の各醸造元に納めるしくみがあります。醸造元は、これに火入れと味付けを行うことで、蔵独自の味わいに仕上げていくのだそうです。製造を効率化する、こうしたしくみがなければ、小さな蔵が生き残っていくことは難しいのだといいます。

「協同組合は、50数年前にできた古いしくみですが、青年部が活発に勉強会を行うなど、盛り上げる努力を行っています。みんなで発酵の魅力をPRしながら、これからも継承していこうとしています」と話す敦子さんは、今後について、このように展望します。

「醤油屋だからこうあるべきと考えるのではなく、伝統を守りつつ現代のニーズに応えた製品づくり、場所づくりをし、今後さらに100年続く蔵にしていきたいです。古いものと新しいものを融合させ、お年寄りから若い人、子供たちにも喜んでもらえる、そんな挑戦を続けていきたいです」

浦野醤油醸造元、5代目、6代目の当主と女将さんたち

福岡県は豊前市を訪ねたときは、こうした地域の文化やそれを大切に温め、育て続ける人びとの存在にも思いを馳せ、その営みに触れる体験にぜひ参加してみてください。挑戦を続ける職人や、素敵な女将さんとの出会いも楽しみの一つになること間違いなしです。

九州北端の小さな町の古い蔵では、今日も麹の華がさく。
皆さんのご訪問をお待ちしています!

 

活まちの旅する記者 Tao

 

〈お店の情報〉

浦野醤油醸造元(屋号 まるは醤油)
所在地  〒828-0021 福岡県豊前市大字八屋1341-1
ホームページ https://urano-shoyu.com/