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現存最古の国産機械式計算機の生みの親を知っているか。
福岡県豊前市が誇る発明家「矢頭良一」。

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2022.1.22

福岡県豊前市は、非常に多くの偉人や芸能人・スポーツ選手を輩出しているまちだ。
豊前市のホームページには、他のまちではあまり見かけない「豊前の先人たち」というページがあるほど。

「偉人は狭い特定の地域に集中して輩出される」「偉人は高度な教育を受けられる状況ほど生まれやすい」「逆に貧しい環境こそが反骨的な偉人をつくり出す」など諸説あるが、豊前市の場合は宇島港の発展に伴う海運業の発展や工業地帯の形成、求菩提山を中心とした修験道の広がりによる文化的素地の存在が関係あるかもしれない。

さて、そんな豊前市の偉人の中でも、現代の私たちの生活に直結した影響をもたらした人物がいる。
その名も「矢頭 良一(やず りょういち)」である。

矢頭良一
矢頭 良一 (1878年- 1908年)

彼は、日本で現存する最古の機械式計算機の発明者。
現代の私たちは、コンピュータまたは電卓を用いて計算業務を行うことが多いが、20世紀後半までは、機械式計算機が盛んに用いられていた。日本では、「タイガー計算器」が世に普及し、機械式計算機といえば「タイガー」だったが、矢頭の「自働算盤(パテント・ヤズ・アリスモメトール)」のほうが早く開発され、1902年に特許申請、翌年に特許取得している。

矢頭はエンジン付き飛行機の製作(完成すれば日本初の飛行機)を夢見ており、自動算盤は飛行機の開発資金を得るために作ったものとされている。1台250円で、約200台が陸軍省、内務省、農事試験場等に販売され、その売上で飛行機の研究をしていたが、1908年に30歳の若さで病没した。

「自動算盤」と矢頭良一は、偉大な功績を残した上、非常にドラマチックなストーリーを有しているのだが、その名が、全国的に有名、とまではいっていないのには理由がある。
前述のタイガー計算器の一般普及と、「小倉日記」の紛失である。

「小倉日記」とは、森鴎外の北九州の小倉在住時代の日記。
鴎外は、1902年に小倉城内にあった帝国陸軍第12師団軍医部長として着任、2年9ヶ月間を九州の地で過ごす。「舞姫」のモデルと言われるドイツ人女性、エリーゼ・ヴィーゲルトが鴎外を追って来日して物議をかもしたり、小説を次々に発表して軍人らしくないと顰蹙を買ったりしたタイミングで、左遷されてきたのだった。

森鴎外と森鴎外旧居
森鴎外と森鴎外旧居

矢頭は、福岡日日新聞(現;西日本新聞)の高橋主筆の紹介を経て、1901年に鴎外と出会う。飛行機研究の援助を求めるためである。
小倉日記には、「当国築上郡岩屋村(現在の豊前市)の人矢頭良一といふもの来訪す。自ら製する所の自動算盤を出して眎し・・・」と、矢頭良一との交流を書き残している。鴎外は矢頭を東京帝大・理科大学(現・東大理学部)へ周旋し、1902年(明治35)自動算盤の特許を得て製品化に成功。軍関係への自動算盤の販売も、鴎外の「つて」によるものだった。

 

小倉日記は、1950年代に発見されるまで「紛失状態」だった。小倉日記の発見が、自働算盤と現存機の再発見につながり、矢頭の名も世に出ることになったのだ。

さて、小倉にある森鴎外旧居内に、鴎外が記した「天馬行空」(てんばこうくう)という書が掛けられている。矢頭の追弔会の発起人を務めた鴎外は、落胆する矢頭の父親へ「天馬行空の四字を書」して贈呈し、その死を弔ったのだ。「天馬行空」の「天馬」は、天上界の天帝の乗る馬のこと。その天馬が自由に空を駆けるという意味で、着想などが自由奔放でなにものにもとらわれないさまを表している。飛行機に夢を乗せ、自働算盤を発明した矢頭にぴったりの言葉である。

現在、森鴎外旧居も、自働算盤の現存機も北九州市内に所在・展示されている。北九州・小倉から豊前市までは1時間ほどの距離。
矢頭良一をはじめとした豊前の先人たちが見た風景に、想いを馳せる旅はいかがだろうか。

活まち出版社 新人ライターS

(画像出典)
豊前市公式ホームページ https://www.city.buzen.lg.jp/kanko/miru/jinbutsu/yazu.html

(出典)
豊前市公式ホームページ https://www.city.buzen.lg.jp/kanko/miru/jinbutsu/yazu.html
コンピュータ博物館 https://museum.ipsj.or.jp/computer/dawn/0052.html
機械遺産 https://www.jsme.or.jp/kikaiisan/heritage_030_jp.html
北九州市小倉北区ホームページ https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kokurakita/file_0096.html