ロード中...
トップ画像

美しい名峰の麓にある、日本初の本格的チルドレンズ・ミュージアムを知っているか。

たのしむ   まなぶ   つくる  
2022.5.4

「チルドレンズ・ミュージアム」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
こどもたちの体験学習を刺激する展示とプログラムを提供する教育施設のことで、こども自身が内に秘める可能性を、自ら遊びながら発見し、表現する手段と出会える場だ。
特徴のひとつに、「hands-on(参加体験)」「Please touch(どうぞ触って)」というスタンスをとっているということがある。一般的なミュージアムでは、展示物は「Do not touch(触らないで)」なので、対照的だ。

チルドレンズ・ミュージアムは、1899年にブルックリンでつくられたのが発祥といわれており、だんだんとアメリカ全土に広がっていく。その後は、スイスの心理学者ジャン・ピアジェが発表した「ものを知るということは、それに基づいて行動することである」という児童発達理論を実践した「ボストン・チルドレンズ・ミュージアム」が、チルドレンズ・ミュージアムの金字塔となっていく。マイケル・スポック氏が1962年に館長に就任した後の話である。こどもたちが自発的に触って、体験して、理解を深めるインタラクティブな展示方法、つまり現代のチルドレンズ・ミュージアムのスタンダードができあがったのだ。

具体的には、文化、健康、言語、アート、サイエンス、テクノロジー、数学など様々なテーマに基づいてつくられている展示や体験のほか、京都の町屋の中に入って当時の生活を感じることができる日本文化のコーナーというものもある。

さて、現代日本では、博物館や図書館、科学館、動物園、水族館など様々な施設で、こどもたちが展示物に触れたり、考えながら心を開いて遊ぶことのできる、チルドレンズ・ミュージアムの要素が入ったコーナーが、必ずといってよいほど存在する。それほど、チルドレンズ・ミュージアムの考え方が、世の中に浸透しているということなのだが、アメリカにはチルドレンズ・ミュージアムが300施設あるといわれている一方で、日本には専用施設はなかなか少ないのが現状だ。

そんな中、今回ご紹介するのは、日本初の本格的チルドレンズ・ミュージアムといわれている、「遊びと学びのミュージアム」。

「遊びと学びのミュージアム」は、福島県福島市の隣町である伊達市の霊山(りょうぜん)エリアに所在する「りょうぜんこどもの村」の敷地内につくられた施設。1993年の出来事だ。
伊達市の霊山 エリアには、断崖絶壁の山肌をあらわにした名峰「霊山」があり、その麓に「りょうぜんこどもの村」がある。りょうぜんこどもの村には、ジャンボすべり台やアスレチック設備、スカイサイクルなどの遊具があるほか、バーベキュー施設やキャンプ場があり、1972年 の開園以来、多くのこどもたちが楽しんできた場所なのだ。

りょうぜんこどもの村
霊山とりょうぜんこどもの村のジャンボすべり台。霊山と紅葉が美しい。

なぜ、この霊山という地にチルドレンズ・ミュージアムがあるのだろうか。
「遊びと学びのミュージアム」のプロデューサー・目黒実氏の著書「チルドレンズ・ミュージアムをつくろう(ブロンズ新社)」によると、NHK大河ドラマ『太平記』で、霊山ゆかりの偉人・北畠顕家を、女優の後藤久美子さんが男役で演じていることが話題となっているタイミングだったので、それを好機と捉えた霊山町(当時。現在の伊達市)がまちおこしをしたいと考えていたことが、発端だったようだ。そして、こどもと大人がともに遊び、学び、語り、理解しあい、共生できるミュージアムがあれば、地元だけでなく、広域に住むこどもたちの未来にとって有益であると考えた。また、霊山と「こどもの村」の美しい景観と豊かな自然に抱かれ、屋外で思いっきり遊ぶ時間と、屋内のミュージアムで創作や思索を行う時間、という動と静、両極のアクティビティを一度に味わえる理想的な環境をつくることができるのも、ひとつの理由だった。

チルドレンズ・ミュージアムをつくろう
日本と海外のチルドレンズ・ミュージアムの概念や、当時の最先端の取組み等についてわかる書籍で、「遊びと学びのミュージアム」についても詳しく紹介されている。

そんな「遊びと学びのミュージアム」は、1Fがアースフロア、2Fがアートフロアという2階建ての構造となっており、それぞれのテーマに沿って様々な展示が行われている。

1Fのアースフロアでは、「音波でつくる山脈」「竜巻と遊ぼう」「回転する柱」などの「アース・サイエンス」コーナーのほか、地球の自転や地軸の傾きについてわかる「アース・プラネット」コーナー、地球上にある政治や経済、環境などの諸問題を、地球儀に載せて表現している「ワールド・プロセッサー」など、科学の面白さについて、時空を超えた気分になりながら、見て、触れて、学ぶことができる。

ワールド・プロセッサー
1Fのアースフロアにある展示「ワールド・プロセッサー」。ドイツ人アーティスト、インゴ・ギュンターさんの作品だ。

2Fは、「ワークショップスタジオ」のほか、「絵本ライブラリー」「フェイスペインティングコーナー」など、こどもたちの創造力・想像力を引き出し、自由に表現できる空間だ。

遊びと学びのミュージアムの本棚

遊びと学びのミュージアムのベンチ
2Fのアートフロア。本棚やベンチひとつ取ってみても、芸術的で脳が刺激を受ける。

ミュージアムすべてがアート作品によって埋め尽くされており、大人にとってもいるだけで楽しい空間になっているほか、日々ワークショップが開かれるなど、毎回違った楽しみ方ができるのも魅力のひとつだ。

日本では、こどもたちが順路のない空間で自発的に動き回りながら、展示物に触ったり、ワークショップに参加したりするようなことに特化した施設は、あまりないのが現状だ。それが、名峰霊山の美しい景観・豊かな自然環境という屋外の魅力と同時に楽しめるとなると、ここ「りょうぜんこどもの村」と「遊びと学びのミュージアム」は、日本唯一の場所と言っていいだろう。

「りょうぜんこどもの村」は1972年に開園し、2022年で50周年を迎えた。冬期休業から、一部施設をリニューアルし、3月に再オープン。その際に、休憩スペースやミニボルダリングが新たに追加され、ますます楽しい場所となった。

この夏、自然に囲まれた「チルドレンズ・ミュージアム」で、遊びながら学び、学びながら遊ぶ、そんな経験をしてみてはいかがだろうか。

活まち新聞社 新人ライターS

りょうぜんこどもの村(http://kodomo-ryozen.org/
●所在地
〒960-0807福島県伊達市霊山町石田字宝司沢9-1
●開園期間・時間
3月中旬~12月中旬(冬期休園あり)
毎週水曜日休園(祝日・GW・夏休みを除く)
9時~16時30分(最終入園16時)
●料金
こども(3歳~中学生)200円 おとな(高校生〜)500円

<参考文献・ホームページ>
りょうぜんこどもの村 ホームページ(http://kodomo-ryozen.org/
「チルドレンズ・ミュージアムをつくろう(ブロンズ新社)」著 目黒実

※本記事は2022年4月に執筆したものです。最新の情報は公式ホームページ等をご確認ください。