一枚一枚に、何か込められた想いがあるはず。福島県伊達市の公式インスタグラム「い~ない! だて」に並ぶ写真を眺めていると、そこには何か、物語があるように思えてきます。四季折々の風景を背に走る列車や咲き誇る野花、農家の軒先など、撮影テクニックもさることながら、その背景に触れてみたくなる不思議な魅力を感じます。
今回は、そのうちの5点を、公式インスタグラムスタートの背景と、撮影エピソードとともに紹介します。ぜひ小さな写真展を覗くような気持ちでお付き合いください。
「行政機関がSNSを活用する機会が増えました。伊達市でも、数年前から公式のFacebookやTwitterをやっていましたが、当初発信していたのは、行政情報ばっかりでした」と振り返るのは、伊達市役所で、秘書広報課に所属する橘内清隆(きつない きよたか)さんです。インスタグラムに掲載される、多くの写真の撮影を手掛けてきました。
以前からSNSを通じて、まちの魅力を伝えられないものかと思案していた橘内さん。市の施策として、2020年にシティープロモーションの強化が挙がったことが追い風となり、数年越しの「あったらいいな」を実現したのが、この公式インスタグラムだったといいます。
「施策の一環として、インスタグラムの名前でもある『い~ない! だてプロジェクト』というものを始めることになりました。『いーない』というのは、こちらの方言で『いいでしょ』という意味で、よく使われる言葉なんですよ」と笑顔で話す橘内さん。
投稿を見た市民からは「こんな所にいい風景があったんだね」と、再発見を喜ぶ感想も聞かれるようになり、言葉に込めたねらい通り、上々の滑り出しを見せています。
そんな数々の写真の中から、伊達を語る上でこれは外せないという3点を、橘内さんご自身に選んで頂きました。まずはご覧ください。
橘内さん:伊達市に欠かせない鉄道である、阿武隈急行と雪をセットに撮影しました。夕方、雪が降ってきたのを見て、これを撮りに行くぞ! と出かけて行きましたが、電車がなかなか来ず、寒い中待ち構えた思い出があります。わざとフラッシュをたいて、雪を丸くぼかす工夫をしたところもポイントです。
庁舎から徒歩5分ほどの大泉駅で撮影された写真だそうですが、これはチャンスと駆け出す情熱にも脱帽の一枚。毎日くり返される風景ですが、雪や夕暮れ時という時間の効果も相まって、幻想的な情景が切り取られています。
2つ目は、橘内さんが特に思い入れを持つこちら。
橘内さん:左右対称にきれいに並んだ、乾燥中の『あんぽ柿』です。梁川町の五十沢(やながわまち いさざわ)という地区では、この時期になると、どこの農家でもあんぽ柿づくりが行われています。民家の脇に作業場と干し場があり、一面オレンジ色のカーテンが引かれたように、本当に素晴らしい景色が広がります。
あんぽ柿は、五十沢で誕生した、伊達市の誇りでもある特産品の一つです。通常の干し柿が、水分率25~30%と硬く、褐色であるのに対し、あんぽ柿は、水分率約50%とジューシー。独自に加えた硫黄燻蒸の過程を経る工夫で、鮮やかなあめ色が保たれることも特徴です。
先達の渡米研修や燻蒸手法の試行錯誤の歴史など、数々のエピソードを経て誕生したというあんぽ柿は、令和4年に、出荷開始からちょうど100年目を迎えました。皮むきや連(れん)づくりが行われる晩秋から初冬には、大人から子供まで一家総出で作業が行われ、家族の絆を結ぶ存在でもあります。伊達市では、この伝統を後世に伝える努力も続けられています。
3つ目は、特にその「色」にこだわりがあるという一枚です。
橘内さん:伊達市のシンボル、霊山(りょうぜん)は外せないと思い、選びました。この日は、朝6時に起きて登り始めたのですが、ちょうど斜面に朝日があたって、オレンジ色がとても際立って見えました。朝しか見られない瞬間だと思い、撮ったものです。
まちの見どころでもある霊山は、夏の新緑や秋の紅葉など、さまざまな写真が観光ポスターやパンフレットなどに掲載されています。多くは、切り立つ岩山を頂上から見下ろすアングルで撮られるそうですが、こちらは登山途中に魅力を感じた情景なのだとか。市民にとっては、普段見慣れた霊山の「別の姿」が映し出された一枚となっています。
太平洋を望む大パノラマが楽しめる観光スポットとして、ハイキングにもお勧めの霊山。四季折々、さらには時間によって変わりゆく「色」にも注目して、楽しんでみるのはいかがでしょうか。
さて、続く2枚は「番外編」として、伊達市初心者でもある筆者の推す作品です。
阿武隈急行、2枚目の写真です。緑と青の素朴なラインの映える車両が、風景に溶け込む様子が気に入って選びました。
橘内さん:陸橋の上から撮影したものです。水路がまっすぐ伸びていて、平地には田んぼが広がり、奥には山並みもあるという、まさに伊達市の風景が広がる場所です。車体のラインは、緑と広瀬川や阿武隈川をイメージした青の2色で、この色を見ると、みんな懐かしいと感じると思います。青空の下で撮れると、もっと格好よかったんですけどね。
水路には、実は魚釣りをする人の姿も! さまざまな伊達の日常が潜む一枚です。
残念ながら、この緑と青の車両が見られるのも、残りわずかかも知れません。開通以来、30年以上現役を通した車両たちは、順次新しい車両へと刷新が行われています。同様の全面塗装には、多額の経費を要するため、新しい車両をこのカラーにするのは難しいのだとか。この機会に、「元祖阿武急」の雄姿を写真に収めておきたいものです。
最後はこちら。何といっても文句なしの可愛さ!
橘内さん:何年か通いましたが、なかなか撮ることができず、「今いるよ!」との知らせを受けて、ようやく今年撮ることができました。木の上から落ちそうになって、何とかへばりついているところ、偶然カメラ目線をくれました。
橘内さんのコメントに、可愛さが倍増するこの一枚。梁川町の八幡神社のケヤキには、8年前からフクロウが営巣しています。巣立ち雛たちの姿を一目見ようと、この時期には、多くの人が集まるようになりました。まだうまく飛べず、田んぼに落ちてしまったヒナを、地域住民が助けたエピソードなどもあり、地元でも愛される存在となっています。
(フクロウを見に訪問の際は、静かに見守るようにしてあげてください!)
伊達市の日常を、鮮やかに切り取る写真たち。橘内さんが、そこに込めた想いとはどのようなものだろう。
橘内さんは「伊達市らしさは、多分何てことない風景なんです。けれど、どこにでもある風景が、本当は良さでもあることを見てもらいたい。伊達市民に良さを再発見してもらい、市外に出た人たちには、ふるさとを懐かしく思い、拠りどころとして見てもらえたらいいな、というのが始まりでした。まずはこうした方たちから、いいところだということを広めてもらいたいという想いが、一番強かったです」と語ります。
その鍵として、橘内さんがこだわりを持っているのが色。「早朝や夕方にしか見られない『いつもと少し違う色』の風景を通して、魅力を再発見してほしい」と続けます。
一方でこの3年間に、誰もが知る伊達市は、出し尽くしてしまったと感じているという橘内さんは、今後はもっと、掘り下げたものを見せられるようにしていきたいといいます。
「例えば、通い慣れた道の途中にある誰も気づかない風景や、まだ訪れたことのない地区に隠れた『知らない伊達』探しがしたいと思っています。もしかすると最後には、人にたどり着くかもしれません。伊達市には『幸せが じゅずつなぎになるまち 伊達』というキャッチフレーズがあります。人と人がつながり、人と人の良さが飛び交うところというメッセージが込められています。魅力を探していくと『あれ? 魅力は伊達市民じゃない?』というところに行き着くような気がします。そのうち、市民が登場するインスタグラムになるかも知れません」
橘内さんは最後に、写真への想いをこのように語ります。
「写真は一瞬のその時にしか出会えないものを切り取り、その場を味わえなかった人に感動や元気、勇気を与えてくれる力があると信じています。その力で伊達市をもっと知り、伊達市に愛着を持つ人たちの輪をつくっていきたいと思っています」
一枚一枚のふるさとの風景には、思った通り、静かに、けれども熱いメッセージが込められていました。
活まちの旅する記者 Tao
〈福島県伊達市公式インスタグラム「い~ない! だて」〉https://www.instagram.com/iinaidate/?hl=ja
「い~ない! だてプロジェクト」では、インスタグラムの他に、月1回の動画配信(Youtube)と広報誌「伊達」の発行も行っています。ぜひお目通しください。