2021年12月23日。
北海道東川町でのリモートワークも4日目。
5本目のZoom打ち合わせを終え、PC作業もひと段落ついた。
ほとんど二地域居住状態となっている、オフィス兼宿泊施設を出て、雪を踏みしめて立つ。
外気温は、たぶん-7℃~-8℃くらい。
東川町の西町3丁目、中心部から車で2~3分の場所に、お試し移住者や株主(ふるさと納税の寄付者)らのための宿泊施設「東川暮し体験館」がある。
東川町は木工のまちなので、この施設の設備や内装は、町内の工房で作られたデザイン性の高い家具や、調度品が使われている。
この、暮し体験施設がある棟の隅っこにある、昔の公団住宅のような部屋を借り切って、夜遅くまで、ガッツリと仕事をするのが、私の東川スタイルだ。
「あと少しで、日付が変わるな」
そんなことを思いながら、頭の中では、きらびやかなイルミネーションに飾られた、都会のクリスマスイブのビジュアルが広がっていた。
「東川でのクリスマスイブは、初めてかもしれない」
そう考えたら、居ても立っても居られず、深夜の東川のまちの様子が気になりだして、思わずダウンジャケットを羽織り、車のキーと携帯電話を手に取って、ブーツを履いて外に飛び出してしまった。
外は超寒いが、幸い雪は降っておらず、立ててあった車のワイパーを元に戻すだけで、車のボンネットや屋根の雪払いもすることなく、車をすぐに動かすことができた。
街灯の光が一面の雪に反射して、澄んだ空気の向こうの空が、朝焼けみたいに輝いている。
車に乗り込んで、まちの中心へ向かってみる。
ツルツルで氷のようになっている轍の部分に、車のタイヤを合わせながらゆっくり走る。
旭川と東川を結ぶこの道(北海道道940号東川旭川線)は、北海道で2番目に長い直線道路らしい。
さすがにこの時間になると、前から来る車のヘッドライトもなく、後ろから来る車のヘッドライトも、バックミラーには映っていない。
もちろん、人影もなく、道路沿いの街灯が真っすぐ続いているだけだ。
まちの中心にある、道の駅ひがしかわ「道草館」にやってきた。
昼間なら、道の駅の前の駐車場に車が停められないくらい、多くの人で賑わっているこの場所も、深夜なので、車も人も全然いない。
ここの道の駅の様子は、5年くらい前から、ずっと見ているが、最近は品揃えが豊富になっているように感じている。
日に日に、って言ったら少し大げさだけど、特に、ドーナツなどの焼き菓子、お酒などの飲料は、とても種類が多くなった。
これらは、外から来た移住者の方が、新しく店を始めたことが主な理由かもしれないが、一方で、前からあるお店の商品が、いろいろ工夫されたり、品数が多くなったりしていることも大きいのではないかと、そんなふうに感じている。
「豆腐屋さんのパスタ」なんて、思わず二度見してしまった。
道の駅の玄関の明かりが、煌々と点いているのは、建物の中のトイレが、24時間誰でも使えるようになっているからだろう。
「明日の夜中。サンタクロースがこっそり休憩しに来るかもしれないな」
さて、ここから車を北に走らせて、昨年、大規模にリニューアルした、「文化ギャラリー」の前で、また写真を1枚撮ってみた。
東川町は、言わずと知れた「写真の町」。
1985年に「写真の町」宣言をして以来、写真甲子園や国際写真フェスティバルなど、写真文化の首都らしい取組を、脈々と続けている。
その展示や収蔵のためのメイン施設であり、また、子どもを含む町民の方々が、写真に関連する発表や展示ができたりと、様々な形で、広く活動や交流ができる、東川らしい施設になっている。
改修に当たっては、町の担当課長さんが、展示器具、コンセントの位置、サイン、建具の高さなど、細部にわたって、展示する作品や写真家の立場、鑑賞するゲスト、そして裏で支えるスタッフや職員のことを深く考え、こだわり抜いて整備したことは、先日、話を聞いて驚いた。
中に入ったときの、厳かで、でも、スタイリッシュな感じは、実際に来てみて、体験しないとわからないだろうな、そんなことを考えさせられるくらい、夜中の「文化ギャラリー」は、とても「写真映りがいい」と思った。
「文化ギャラリー」からぐるっと回り込み、町役場の前で、また車を停める。
役場の建物の中には、人影はなく、灯だけが輝いている。
ここの役場は、昼間は結構車が多く、駐車スペースに停められなかった車が、庁舎に横付けするように並ぶ光景は、日常茶飯事だ。
この間、定点観測のように見ていると、旭川ナンバーの大半は、地元の町民さんが、役場の窓口に、何かの手続きとか、相談で訪れているのだろう。
でも意外と、旭川ナンバー以外の車や、レンタカーナンバーも見かけることが多いので、外から商談や打ち合わせに来ている人が、結構いるということが想像できる。
それが、このまちの元気や賑わいの源であり、移住者が多く、人口が維持できていることの、表れになっているのだろう。
しかし、さすがに今の時間は、音が消え、動くものは何もない。
写真を撮るために、この間頻繁に、窓を開けたり閉めたりしているので、車の中がいつまでたっても温まらず、体の芯からどんどん冷たくなっていく。
「さて、もうそろそろ帰ろうかな」
そう心の中でつぶやいた時、じっと待っていたかのような「トナカイ」が、目の前に現れた。
時計を見ると、12時を少し回っている。
クリスマスイブがやってきた。
頭の中で、山下達郎の曲が、大音量で流れ出した。
「サンタは、きっとこのまちにもやってくるだろう」
活まち新聞 記者R