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東川町の冬は恵みの季節だった。〜移住1年目の冬〜
 

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2022.12.14

私は、2021年の春、雪の降らない町から東川町に移住しました。大雪山系の山々に囲まれた町で過ごす春と夏の景色は素晴らしく、北海道の広大な景色を楽しみました。美しい季節を満喫し、感動する毎日を送っていましたが、ふと頭をよぎることがありました。それは、雪の降る冬のことです。雪の降らない町で暮らしていた私にとって、やがて訪れるこの町の冬は不安以外のなにものでもありませんでした。マイナス10度以下の気温はどのように感じるのだろうか?雪道は滑らず歩けるだろうか?と今思えば、笑えるようなこともこの時は真剣に考えていたのです。雪道の運転はさらに不安で、雪が降ったらどこにも出られないと思い込んでいました。雪かきもしたことがなく、どうなってしまうのだろうと冬が近づくにつれて、次から次へと冬の生活への不安が募っていきました。

9月に入ると朝晩の気温がぐっと下がり、秋や冬が近づいていることを空気で感じることが多くなりました。その頃になると、木々は美しく紅葉し、青々としていた葉は黄色や赤に変わっていきます。この町の秋の景色は、とても美しいものでした。町を歩くと、街路樹の色とりどりの落ち葉が、木の周りをまるでドーナツのように取り囲んでいます。冬への不安を抱えながらも、そんな秋の景色を見つけては写真を撮って楽しんでいました。そんなひと時は、宝物でも見つけたような気持ちになり、冬の不安も忘れて目の前の景色に癒されていました。

町の街路樹の色とりどりの落ち葉

気温が下がっていくにつれて、町から見える山々の山肌が黄色く紅葉していきました。しばらくすると旭岳にも雪が降り、町からは雪化粧した美しい大雪山の山々が見えるようになります。それは、雪が残る春の山々とはまた違って見えます。手前に見える美しく紅葉した黄色い山々と雪の帽子をかぶった旭岳の姿は神々しく、神聖な景色です。日々の暮らしの中で、このような大自然を感じられる時間はとても贅沢で幸せを感じる瞬間でした。

美しく紅葉した黄色い山々と雪の帽子をかぶった旭岳

そんな秋の景色を楽しんでいる間にも、秋は深まり、雨とともに白い雪が混じるようになってきました。いよいよ冬の到来です。私の不安はどんどん大きくなっていき、気持ちは沈みがちになっていきました。この年は降雪が遅く、12月になっても路面が見えていたので例年になく暖かい冬の始まりでした。12月の半ばを過ぎた頃の気温は、最高気温がマイナス1度から6度。最低気温はマイナス5度から12度程度まで下がりました。1月になると最低気温がマイナス18度の日もあり、初めてのことばかりの冬を迎えました。

12月半ばからは、雪が積もり毎朝の雪かきが始まりました。地元の皆さんは、この年の雪の量を「いつもはこんなもんじゃないよ。」と言われていましたが、雪かき初体験の私にとっては、雪かきも手探りで、力任せにやっていたのでお正月を過ぎたころには腕から手にかけて腱鞘炎になっていました。朝は、窓から雪がどのくらい積もっているのかを確認してから支度を始めるのが日課となりました。雪かきは大変でしたが、雪かきで良かったことは、体を動かす機会になるので良い運動になったことです。寒いと思っていても、雪かきをしているうちにぽかぽかと体が温かくなりました。そして、雪かきをした雪はパウダースノーです。雪をかくと、さらさらの雪がふわっと風に乗って太陽の光できらきらと光ります。それは、とても綺麗で雪かきのご褒美のようでした。

いよいよ冬の到来

そのような毎日を過ごしていたある朝、初めてマイナス16度という気温を体験しました。そんな日は、雪道を歩くとキュッキュッという音が足元から聞こえてきます。足元から聞こえる足音やさらさらの雪を踏む感触はとても気持ち良く感じられます。このくらいまで気温が下がると、川辺の木々は、枝の先まで真っ白に凍っているかのようにきらきらと光っています。気温が低い日は、窓から真っ白に光る木々を見るのが楽しみでした。寒さや足音、雪を踏む感触やきらきらと光る木々など初めてのことばかりです。それは、体中の五感が刺激され、新しい発見に喜びを感じる毎日でした。私が怖がっていた冬は、厳しくも春や夏に負けないくらい美しい季節だったのです。雪が降ってからは、落ち込んでいる暇はなく、このような新しい体験が続きました。

真っ白に光る木々

大雪の予報が出ると、旭川市に住んでいる知り合いのおじいさんや札幌近郊の知り合いのご夫婦から「雪は大丈夫?」と電話がかかってきます。冬になってからは、家にいることが多く、人との交流が少なかった私にとって、声をかけてもらえることは、とても嬉しいことでした。電話で生活の様子をお話したり、分からないことを教えて頂いたりしていると、心がほっとして、とても温かい気持ちになりました。

2月も後半になり春が近づいてくると、夜間の気温もマイナス一桁となり、気温が上がっていきます。春になれば気温が上がるのは当たり前だと思っていましたが、あんなに低かった気温が夜間でもマイナス一桁になっていくのがとても不思議に感じました。なぜ不思議に感じるのか考えてみました。それは、私が、冬を体験している間、その時の寒さや大変なことにとらわれて、この寒い冬がずっと続いていくのでないかといつの間にか思い込んでしまっていたからだと思います。

「冬は必ず春となる。」という言葉がありますが、その言葉を身をもって感じることができました。春が来れば暖かくなるという当たり前のことが不思議に感じるという、今まで感じたことのない感覚を体験した冬でした。そんな時、真っ白だった道の雪が解けて、道路のコンクリートが見えた時の気持ちは、驚きとともに、雪で覆われた世界が春になっていくのだという喜びでいっぱいになりました。

あれこれと悩んでいたこの町の冬は、美しい自然や温かい人の心を感じられる素敵な季節でした。

この町の冬は美しい自然や温かい人の心を感じられる素敵な季節

東川町民 自然に親しむF

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