私は2021年の4月に北海道東川町に移住しました。
移住してすぐに感じた東川町の春は、今まで体験したことのない驚きに満ちたものでした。この町の春の景色は言葉には言い表せないほど美しく、それは冬の厳しさを物語っているようでした。
家を一歩出ると、空き地やご近所の庭に咲く色とりどりの草花、太陽の光でエメラルドグリーンに輝く木々の葉が目に飛び込んできます。そして、少し歩くと目の前に広々とした畑が広がり、まだ雪の残る雄大な旭岳の姿が現れるのです。
大雪山の山々はそこだけ現実の世界とは思えないような美しさで、その姿をみかけるたびに足を止めて眺めてしまいます。私は雪国の暮らしに不安を持ちつつも、キラキラと輝く自然の素晴らしさに感動していました。
同じ季節なのに東川町の春は故郷の春と何が違うのだろうか?
そんなことを思いながら、町の自然を楽しんでいるとその違いに気がつきました。雪の降らない暖かい故郷の春はとても穏やかで、草花はひとつひとつゆっくりと芽を吹き花が開いていきます。しかし、東川町で見る春は全く違っていました。
この町の草花は、この季節を待ち構えていたかのように一斉に咲いていたのです。なかでも空き地いっぱいに咲くたんぽぽには目を奪われました。見たことのないその風景は、まるで黄色いじゅうたんのようで、思わず声を出してしまうほどでした。
自然が春の到来を喜んでいる。そんな感覚がぴったりの東川町の春の景色に、故郷の春とは違う圧倒的な勢いを感じたのです。そして、私はこの町の春の勢いを目にするたびに厳しい冬の存在も同時に感じていました。
雪の降る冬を体験したことがない私は、移住する前から厳しい冬に対する不安を抱えていました。体験したことのない寒さに耐えられるだろうか。雪道を運転できるだろうか。雪かきはどのくらい大変なのだろうか。そんなことをいつも考えていました。
ある日、そんな気持ちを持ちながら、空き地いっぱいに咲いているかわいいたんぽぽを見ていました。このたんぽぽも厳しい冬を乗り越えたからこそ、こんなにきれいに咲いているのだろうな、とぼんやりと考えていました。
すると、「冬はつらくないよ。冬は雪が僕たちを守ってくれる。雪の下はとってもあたたかいんだ。」と答えのような言葉が頭に浮かびました。なんだか不思議でしたが、面白いなと思いました。
その言葉が思い浮かんだ時、厳しい冬を乗り越えないと美しく咲けないと思っていた私は、ほっとしたのです。そして、私の冬の不安を和らげてくれたのでした。
このような東川町の春を日々感じながら暮らしていく中で、新しい生活への不安は少しずつ薄らいでいきました。
これから訪れる夏の田園風景や、黄金色に色づく紅葉の秋、厳しい冬が、どのような景色を見せてくれるのだろうか、その景色から何を感じることができるのだろうかと、これからの東川町での暮らしがとても楽しみになったのです。
東川町民 自然に親しむF