ロード中...
トップ画像

耳、いつもありがとう。
 

すごす   やわらぐ   親しむ  
2022.9.14

先日、郷里の父と電話をしました。近所に小規模保育園が建つことになったわ、と父は話していました。
「前を通っただけでこどもの声が聞こえるだろう。こどもたちの歌声が聞こえるかもしれないなぁ。」と。父にとって、こどもたちの声は嬉しい音のようです。

耳に入ってくる音。自分の耳だからといって、いつでも同じではありません。同じ音でも、自分の置かれている状況によって捉え方が違うこともあります。

秋、冬、春、夏。音に焦点を当ててみたい、と思いました。
北海道東川町で暮らし、身近になった音を思い浮かべてみます。

 

黄金色の田んぼ

9月。北海道の夏休みは、本州の多くの学校より、遅く始まり早く終わります。盆明け早々にこどもたちが登校する頃、本州ではよく聞こえるツクツクボウシは聞こえず、秋の虫たちの音が聞こえます。
農作物がたわわに実り、米農家さんの稲刈り機が、黄金色の田んぼの中で動き続けています。

収穫期を終えて、雪が降り、積雪になるまでの期間。個人的な感覚ですが、1年の中で1番静か。

移住前は、冬が1番静かだろうと思っていました。厳冬期に北海道を訪れたこともあり、冬特有の静けさに惚れ惚れとしていました。
今も冬の独特な静けさが大好きです。けれど住んでみると、意外にも音であふれている冬の暮らしもあるのです。

 

冬。世界がひっそりとしています。雪がしんしんと降り積もっていく夜は、息をひそめているような特別な静けさがあります。
その降り積もる雪こそが、人間社会には音をもたらします。
待っていました!除雪車です。深夜から明け方にかけて働いてくださる除雪のお仕事。除雪車のエンジン音と暗闇を照らす光は、移住前には想像もしていないものでした。眠りが浅い夜なら、あぁもう眠れないなぁ、と諦める気持ち。同時に、除雪が入ってくれた、とホッとする気持ち。
排雪も同じく。日中に行われる何時間もかけての排雪作業は、音も大きく、通る際には迂回する必要も生じます。でも、やはり除雪と同じように、感謝の気持ちでいっぱいになる騒がしい音、といった感じです。
12月中旬になると、キャンモアスキー場が営業を開始します。ワクワクと出かけると、ゲレンデのBGM。ゲレンデはこうでなくっちゃというウキウキ気分もあったり、騒がしいなぁと思う気分もあったり。ゲレンデにいる!という気分がこみあげることは確かです。

移り住んで間もない頃、公共施設にいたときに聞いたこともない大きな音に驚きました。バババババンッ バババババババッ。爆発?爆弾?けれど不思議なことに、私の他には、おそらく誰も驚いていません。職員の方も落ち着いた様子。
また、別の日。別の公共施設で、再び、あの音!何も知らなかった私は、自衛隊の演習か何かの音が聞こえるのかと考えました。そして、町の人たちは、その音に慣れっこなのかしらと考えていました。
また、別の日。我が家でその音が!身をすくめながら窓から外を見ると…!雪がなだれ落ちてきていました。一瞬の轟音。屋根からの落雪のおそろしさがわかりました。今では「大きな木や屋根の下を歩かないよ!」と、口をすっぱくしてこどもたちに話しています。

日中の気温がプラスになってくると、雨かな?と窓から外を見ることが増えます。正体は、つららからぽとんぽとんと落ちる滴。ぼとぼとぼと、じゃじゃじゃじゃ、と水量によって音も変わります。
ビシャバシャビシャーッバシャーッという音と共に、雪がとけて水浸しになった道路と向き合わなくてはいけないのも、この時期。
陽射しに温もりを感じ始める頃。
寒さがゆるむと同時に、人々の頬もゆるみ、道端や店先で談笑する声が聞こえるようになります。移住してすぐの頃は無口な人が多いのかなと思っていましたが、そうじゃなかった~(笑)太陽は、こわばった体も心も温めてくれます。

 

キツツキのドラミング

キツツキのドラミングも盛んに聞こえます。コゲラ、アカゲラ。キトウシ森林公園ではクマゲラを見かけたこともあります。天然記念物に指定されているクマゲラに出会えたことに感動しました。ドラミングは、突然すぐそばで工事が始まったのかと思うほどの大音量。森の中で響き渡ります。
雪がとけ、久しぶりの土を拝む頃。声高い鳴き声が、空から聞こえます。ハクチョウです。V字隊列で飛んでいく様には、毎年感動します。
人間の時間軸ではない、様々な命の営みを想像すること。ひととき、そんな時間を持てる暮らしにも感動しています。
春がやってくることを確信できます。

カッコウの鳴き声に耳を傾けながら、朝ごはん。田植えのシーズンです。カラスの威嚇が増え、用水路には雪解け水が通水されます。
前出の父が東川町に遊びに来たとき、「カエルの声、風情あるなぁと思っていたけど、うるさくて眠れないくらいだった!」と笑いながら言っていたほどの輪唱が響き渡ります。

カエルの輪唱

 

夏の到来。草刈り機の音が、大抵どこからか聞こえます。
我が家では、虫を捕らえるために原っぱ、魚釣りをするために川岸、と外で長時間過ごすことが多くなります。
はっきりと音として捉えることができるもの。音が聞こえたのか定かではないが気配を感じるもの。自然の季節の音が、とても心地よいのです。そういった環境にいると、同時に聞こえてくるたくさんの音。「しずかでにぎやかなほん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン作/童話館出版)のページをめくりたくなります。
命を守る術でもあります。羽音が聞こえたら、蜂かもしれない。草ががさごそしたら、クマかもしれない。耳が働いてくれているなぁ!とよく思います。
祭りの季節でもあります。羽衣太鼓、花火、こども盆踊り唄、北海盆歌、お囃子。聞こえてくる音に心浮き立ちます。ちゃーんこちゃんこちゃんこ♪と気がつくと親子でハミングしています。

夕焼け

 

ある人にとっては耳を傾けたい音が、ある人にとっては不快で耳をふさぎたくなる。ある人にとっては些細な音が、ある人にとっては気になって仕方ない。
今、目の前にいる人と、同じ音を聞いているとは限りません。不思議ですね。
そばにいるのに共有できない哀しみを感じると同時に、どんなふうに聞こえているのだろう面白いなぁ、と思います。
もちろん、音だけではないのでしょう。感覚への興味は尽きません。
大人が鼻歌まじりにスキップすることができる、適疎な町、東川町が大好きです。

東川町民 栗

もっと東川町のコラムを見る