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『つなぎ、ひも+ぼっこ、けはん』
 

すごす   まなぶ   たのしむ  
2022.5.28

今も昔も。
北国の長い長い冬。
生き抜いてきた祖先の知恵が引き継がれてきたのだろう。
小さい人のそばにいる大人は、創意工夫で寒さからこどもを守ろうとしている。
雪の冷たさからは遮り、雪の楽しさを伝えたいと思っている。

小さい人たちは、全身で雪とたわむれる。
未知なるものへの好奇心も恐怖心もひっくるめて、目・耳・鼻・舌・皮膚を使って、雪に近づいていく。

その好奇心を支えている物、それが『つなぎ、ひも+ぼっこ、けはん』。
育児を通じて出会った、雪国必須グッズだ。

多雪地帯に育った方にとっては、あたりまえの物かもしれない。
積雪がめずらしい地域に育った私にとっては、
移住して一番さまよった物、そして一番感激した物だ。

東川町で迎えた3度目の冬。
はてな?は、唐突にやってきた。

東川町新年を迎えたキトウシより東川町を見渡す。

 

地域子育て支援センター(後述表記※支援センター)で遊んでいたときのこと。
冬がきて、雪が積もる季節になり、
「雪遊びできる格好で来てくださいね!保護者の方もね!」と声をかけてもらった。
よちよち歩きを始めたばかりのこどもに、雪遊びの恰好、何を?着せれば?
先生に訊く。
「つなぎ、着ておいでね。いつも着ているもので充分だからね。」
ここで言われている『つなぎ』というのは、幼児用のスノーウェア。
カバーオール、ジャンプスーツ、呼び方は様々。
上下がつながっている撥水性のある生地で、防寒性がよい。
抱っこして出かけるときも着せていたので、これでOKだ!

続いて、先生が声をかけてくれる。
「替えの靴下も、服の着替えもね!手袋にひももね!けはんもね!」
来所しているお母さん達。
「ぼっこがいいかな。」
「長靴より、ブーツがいいよねぇ。」

ひも?けはん?ぼっこ?ブーツ? 頭の中が?になる。
他の親御さんが話しかけてくれる。
「きゃはんねー、上の子のとき、腕にも縫い付けたわー。」
きゃはん?腕にも縫い付ける?
はてな???が一気に到来した。

「ひも」と「ぼっこ」東川町の人達に見守ってもらって、子育てができている。

 

今までぼーっと何を見ていたのか私!
たくさんの親子と出会う、支援センターで、町角で、スーパーで、近所で!

困ったときの支援センター、である。
みなさん親切に教えてくれる。
道内出身者だろうが、本州出身者だろうが、そもそも子育てってわからないことだらけだよね!という温かい空気感に包まれて、教わったことがコチラ。
『ぼっこ』=親指だけが分かれている手袋のこと。
『ひも』=ぼっこに付ける紐。
『けはん』=『きゃはん』=『脚絆』
『ブ―ツ』スノーブーツのこと。冬用の長靴より軽い。

見ると、袖口からぶらーんぶらーんと紐でぶらさがっている、手袋。
あぁ!紐って、手袋をなくさないように、忘れないようにするための紐なのか!
おぉ。なんと便利な!
帰宅後、さっそく紐を付けて、袖の中に通す。
これでOK!
と思っていると、ぶら下がる手袋が気になるのか、さかんに引っ張る、我が子。
左右のバランスがおかしなことになっていく。
困ったときの支援センター。
「あぁ、それね。引っ張るよねぇ。背中に紐をちょちょちょっと縫っちゃえばいいよ。」
「タグが付いていたら、通しちゃえばいいよ。」
つなぎを裏返して見せてくれる。
おぉ。なるほど。
紐が何かに引っかかったら危ないものね。
まさに、『-必要なればこそ発明が生まれる-』。

お次は『脚絆』。
ゴムをブーツの土踏まずのところにかませて、履くときにたくし上げ、これでOK!
裾を入れるのに力もコツもいるので、最初は大人の手も要るが、徐々になんとか自力で履けるようになってくる。

前述の「けはんを腕にも縫い付ける」というのは、袖に脚絆を縫い付けること。
もしくは袖に脚絆を履いている状態。
袖と手袋の間から、雪が入るのを防ぐ工夫だ。

雪遊び11月下旬。虫取り網で、雪を捕まえようとしているところ。

 

「こどもは雪が好き」「こどもは風の子」「こどもは体温が高いから寒くない」
というのは状況と感情による、と思う。
確かなことは、雪は冷たいということ。
こどもが上天気ではないときに、首や袖や靴に雪が入ってくると、、、さぁどうなるか。
不快さが涙を呼び、泣いているうちに何が何だかになり、手袋を投げ、ブーツや靴下を脱ぎ、ますます冷たくなり、にっちもさっちもいかなくなる。
しもやけになったり、風邪をひいたりしても、たいへん。

雪の中、もこもこ膨らんだ小さい人たちが遊んでいる様子は微笑ましい。
雪玉を投げ合い、すってーんと転んではゲラゲラ笑い、雪道を走る小学生はたくましい。
雪で遊ぶこどもたちの光景に温もりを感じるのは、その背後に、彼らを凍てつく寒さから守ろうとする大人たちの愛情を感じるからだろうか。

そう考えていると、ふと思い出すことがあった。
こどもとの日常の中で、ご近所さんにかけてもらう言葉である。
「寒いっしょ。」「風邪ひくんでないよ。」「冷やすんでないよ。」
こどもといると頻繁に気にかけてもらってきた。
寒いということが、命を脅かすことに直結すると体感している人々の言葉である。

移り住んで3年目のあの頃。
ようやく北国の冬を知りはじめた気がした。

大きくなるにつれて、
『つなぎ』はセパレートタイプのスキーウェアへ。
『ぼっこ手袋』は5本指手袋へ。
『けはん』は裾をしっかり入れられるようになれば不要になった。
『紐』も、本人に「(手袋)なくさんから大丈夫!」と言われ卒業(なくすのだが!笑)。

どれだけ成長しようとも。
どうか健やかな毎日を。
祈る気持ちは変わらない。

私が、冬をようやく越したと思うのは、
来年はサイズアウトしているかもしれないスキーウェアを、洗って片付けるとき。
ありがとう。
大事なこの子を、寒さから守ってくれて。

東川町民 栗

トップ画像:3月下旬。忠別湖畔から旭岳を望む。