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シンクロニシティ@東川
 

ながめる   親しむ   動かす  
2024.2.16

 

皆さんは、シンクロニシティって、信じますか。

シンクロニシティとは、心理学者ユングが提唱した概念で、「意味のある偶然の一致」などと翻訳されることが多いようです。平たく言い換えると、「自分が思っていることが、たまたま何らかの形で現実になること」というような意味合いです。

今回は、ある写真集と、長い時間をかけて現実になった私の願い事、そして「写真の町」東川町の、シンクロニシティのお話です。

ここに、二冊の写真集があります。

 

「Follow Me」井上浩輝著 日経ナショナルジオグラフィック社
「キタリス」竹田津実著 新潮社

両方とも、東川町に住む方が出版されたもの。

私は銅版画を製作しており、日頃からよく、資料用の写真集を買い求めていました。これらはどちらも、東川町の存在すら知らなかった頃、偶然に手にとったもの。
「キタリス」は、移住前に住んでいた横浜の、TSUTAYA書店で。「Follow Me」は、買い物ついでに寄った、東京丸の内KITTEの本屋さんで。
入手した時期も、場所も、全くバラバラの二冊でした。

唯一の共通点は「私が偏愛してやまない」ということだけ(と、東川町という共通点に全く気づいていない当時の私は思っている)であり、なんでこんなに惹かれるんだろう??と不思議に思いつつ、何年も、知らずに版画の資料として使っていました。

だって、気づくはずもありません。本の奥付けにも、本文にも、お二方が東川町在住であるとは、いっさい書いていないのです。

銅版画は150年前から続く版画の技法で、厚さ0.8ミリほどの銅の板を、塩化第二鉄という薬剤で腐食させ、凹版を作り出していきます。

出来上がりの版画は、写真に含まれていた現実のディテールが抜け落ち、どこか物語性を帯びていきます。

こんな景色の中に、いつか、自分も立ってみたい。そう憧れながら、横浜にあるアトリエで、版画を作っていました。まさか数年後、「こんな景色の中」に移住するとは、夢にも思わずに。

私が「東川町」というキーワードに出会うのは、写真集の購入から3年後。水が綺麗な町として「暮らしの手帖」で東川町が紹介されていました。いつか行ってみたいと思いつつ、実際に訪れるまで、さらに2年の月日が経ちました。

ついに初めて、観光で訪れた、東川町。

あれっ?このビジュアル、知ってる。見たことがある・・・。町のそこここで、既視感のある写真を発見しました。

土産物屋には、井上浩輝さんのキツネ写真がついたコーヒーが。

図書館「せんとぴゅあ」には、竹田津実さんの著書コーナーが。

さらには、東川町役場にババンと掲げられた「写真文化首都」の宣言。

「○○の町」は、通常、町の特産品や観光名所など、お金で買えて消費されるもので名付けられることが多く、「写真の町」は聞き慣れません。

でも、住んでみると、腑に落ちる。春夏秋冬、身のまわりの風景があまりにも美しく、ただの散歩の途中ですら、
「わあッ!まるで、グラビア雑誌の中にいるみたい!」
と、身もフタもないたとえで、いちいち感動してしまう。

それもそのはず、1985年6月1日発表の「写真の町宣言」では、「写真映りのよい町の創造を目指します」と謳っており、まさに有言実行なのです。当時はこんなにカメラ付き携帯電話が普及するとは、全く予測していなかったのでしょうが、この町ではつい誰もがカメラを構えたくなる。

毎年夏に行われる、東川町国際写真フェスティバルの期間中は、巨大な写真パネルが、美しい緑にいろどられた屋外のあちこちに出現。

パネルが巨大である、というのがポイントで、自分の体がすっぽり収まるほど大きいから、まるで町中にドラえもんのどこでもドアが現れたよう。

ヒョイと額縁をまたげば、あっち側の異世界に行けるんじゃないかという、楽しい錯覚を体感できます。

 

写真はすでに、ある種のシンクロニシティと言えるのかもしれません。「意味のある偶然の一致」という定義において。「意味」とは、ファインダーをのぞいた眼が伝えようとしたメッセージであり、その写真を観る人は、撮影者の想いを、まるで偶然、その時その場に居合わせたかのように、追体験する。

大人顔負けの実力作品が揃い踏みする「ひがしかわ写真少年団」の「Future Photographers展」や、折々に開催される東川文化ギャラリーでの企画展など、写真という切り口での刺激には事欠かず、私にとって「写真の町」は、銅版画作品のための、素晴らしいインスピレーションの宝庫であり続けています。

こうして、私が大切にしていた二冊の写真集は、シャッターを切った人の想いを強烈に焼き付け、知らぬうちに私を「写真の町」東川町まで連れてきてしまいました。

シンクロニシティを信じるかどうか?

ある出来事をふりかえって、そこに「意味」を持たせるかどうかは、自分次第。もし選ぶならば、誰かの想いと私の願い事は、実は共鳴しあっている、ということにしておいた方が、人生が良くできたお話みたいで、ちょっと面白いです。

ちょうど、写真から現実味が抜けて、版画が物語性を孕んでいくように。

版画作品はまとめてInstagramアカウント(@_kosuitei)に載せていく予定ですので、よかったらこちらもご覧ください。

いつか、東川モチーフの私の作品が、誰かのシンクロニシティになって、その人を町へいざなってくれることを願いつつ。

 

狐水亭

 

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