ひとり札幌(千歳空港)に降り立ち、レンタカーを借りて、北上する。
本当は、同僚と奈井江町へ行くことになっていたのだが、急遽、ひとりで出張することになってしまい、雪道を全部自分が運転しなければならなくなって、不安が高まっていたのだけれど、とりあえず快晴で、ちょっと一安心って感じだ。
美唄のインターチェンジで高速を降り、国道12号線に出て、また北上。
後で知ったことだが、この道は、日本で一番長い直線道路で、直線の長さが29.2㎞もあるらしい。
この時は、そんなことも、これから訪問する予定の奈井江町のことも、ほとんど知らず、予備知識ゼロの状態だった。
奈井江町に入った時点で、まだお昼の12時前。
道の右側に飲食店が見えたので、店の前の駐車場に車を入れて、ようやくそこがそば屋だと気がついた。
名前は、「からまつ園」って看板に書いてある。
これも後で知るのだが、ここの店主は、北海道のそば研究会の会長さんで、ミシュランガイドにも出たことがある、北海道では有名なそば屋さんだった。
そこで食べた、北海道の野菜がたっぷり入った「空知野そば」は、とても素朴で美味しかったけど、その時はそんな有名な店だとは知らなかったので、
「どうせなら珍しいそばを食べてみよう、もう来ることとはたぶんないから、せっかくだから」って、心の中でそう思っていた。
日本一長い直線道路や、からまつ園など、侮れないことがたくさんある。
これは、また、じっくり調べて、後日、お伝えしようと思う。
実は、この話は、一昨年の12月の出来事。
さて、その日の続きを書き始めよう。
ほっこり温かいそばを食べ終えて、まだちょっと時間があったので、奈井江町のまちなかを、偵察よろしくぐるっと回り、13時前に役場の駐車場に辿り着いた。
その時の記憶は、雪が踏み固められた道、道の両側に積み上げられ雪の壁、屋根の橋からはみ出し垂れ下がる雪の塊、目の前の白色の境目がよくわからない。
少し戸惑うような気持ちになっていたことが、今でも思い起こされる。
目の前に広がる白の世界の中で、役場の古めかしさは、想定外の驚きだった。
これまでいろんな町の役場におじゃましたが、いわゆる「オンボロ」(←奈井江町の人ごめんなさい)度合いでは、3本の指に入るんじゃないかと思ってる。
また、ちょっと話が逸れるけど、実は、奈井江町が新しい役場に建て替えようと計画していること、その内容が、町民ファーストで、とても特徴的で素敵なこと、これも、だいぶ後になって知ることになった。
実は、あの日、ここから役場に入ったときの出来事が一番強烈で、その先、奈井江町にたびたび行くことになる、大きな原因になっている。
ここからの記憶は、再現フィルムみたいにはっきり思い出すことができる。
頭の中の動画を、ここに貼り付けて説明したいくらいの気持ちだ。
「正面玄関を入って、目の前の階段を歩いて上がる」
「踊り場で反転し、2階にやってきた」
「視界の左側に続く、低いカウンター」
「カウンターの向こうには、机のかたまりごとに、職員さんがパソコンに向かって仕事をしている」
ここまでは、予想どおり。
ここからが、想定外。
右に曲がって、数歩、歩いたところで、目を疑った。
何人かの職員さんが、廊下の先、数メートルのところで、立って待ち構えている。
私の姿を発見した別の職員さんが、また数人、私のほうにやってくる。
立ち止まると、あっという間に取り囲まれてしまった。
「え、なんで、どういうこと」
「いつから待ってたの」
「なんで、こんなに人がいるの」
「どこから、でてきたの」
頭の中は大混乱で、かなり焦っていたのを覚えている。
それから先は、応接室に通されて、名刺交換し、こちら側は一人なのに、向こう側に座っているのは、町長さん、教育長さん、企画財政課長さん、あと、3~4人おられたような気がするけど、圧倒されてしまい、そこはあんまり覚えていない。
机に置いてあった資料は、町の概要、まちづくりの計画、まちの課題など、どれもわかりやすくまとめられていて、思わず、「どこかのコンサルさんが作られたのですか?」って聞いてしまったくらいだ。
目の前にあるいろんな資料だけでなく、まちづくりの計画など、これまで、ほとんど自分たち、町の職員だけで作ってきたことを聞いて、とっても驚いた。
そこから先は、町長さん自ら、丁寧に説明していただいて、終始、感動しきり、恐縮しっぱなしで、今改めて思い起こしても、本当にありがたい時間だったし、何より、一番思ったことは。
「この役場の職員さんは、凄みと思いに溢れているな」
ということだった。
その時の説明の中で、課長さんが自虐的に言われたことばが。
「うちのまちは、昔から、『なんにもないえ』って言ってるんです。」
いやいや、今になって、その認識が全然違うこと、自虐の裏に秘めた思いの深さと強さが半端でないことを、噛みしめている自分がいる。
あれから、2年が経とうとするけど、今までのこと、そして、これから始まること、できる限り、伝えていくことができたらいいなと思っている。
先に「ある」ものを想像するだけで、結構、楽しい気持ちになる。
あの日、そんな感じで、役場でお話しを聞いて、いろんなやりとりをしていたら、夕方になって、辺りはもう暗くなってしまった。
また近いうちに、来させてもらう約束をして、役場を後にした。
活まち新聞 記者R