鳥取県南部町。
このまちでは、午後3時ごろになるとオルゴールの音色とともに、屋外スピーカーから、小学校児童の放送が流れてくる。
「これから〇〇小学校の児童が下校します。
地域の皆さん、いつも私たちの下校を温かく見守ってくださって、ありがとうございます。
〇〇小学校の児童は、車に気を付けて、交通ルールを守って下校します。
そして、地域の皆さんに、気持ちの良い“あいさつ”をして帰ります。
これからも、私たちの見守りにご協力をよろしくお願いします。」
その放送を合図に、青いベストに青いキャップ姿の大人たち(多くはリタイアしたシニア層)が、子ども達が下校する通学路に集まってくる。
地域振興協議会のボランティアの皆さんである。
地域振興協議会は町内に7つあり、それぞれの地域で子どもたちの見守り活動を行っている。
「〇〇ちゃん、さようなら!」
「さようなら!」
ボランティアの皆さんは地域にお住まいの方なので、その地域のおおよその子どもの名前は把握しているのである。
下校が一段落つくと、ボランティアの皆さんは、青色回転灯を載せた軽自動車(青パト)に乗り込み、地域の巡回パトロールを開始する。
ここでは日常的に見られる風景である。
おそらく、見守りボランティアの皆さんは、孫が学校に通っていなくても、子どもの教育に関われる楽しさを「生きがい」として感じているのだろう。
都会の子ども達は、通学中、知らない人には声をかけないよう教わると聞いた。
南部町では全く想像のできない話である。
南部町の児童は、相手の顔を見て自然な“あいさつ”をすることができる。
学校の教育・ルールとして徹底された“あいさつ”とは違い、本当に気持ちのいい“あいさつ”である。
おそらくそこには、地域の方々への感謝の気持ちが込められているのであろう。
以前、このまちに移住してきた方の言葉を思い出した。
「まちのPRをしたいんだったら、この放送を聞かせてあげればいいのに」
その話を聞いて、私はハッとした。
長く住んでいると気が付かないが、鳥取県南部町で暮らす子どもたちは、現代社会において、とても恵まれた環境で育っているのかもしれない。
いつか子ども達が成長し、このまちを離れても、
南部町の地域に育まれた記憶を忘れずに、ふるさとへの愛着を持ち続けて欲しいと思う。
南部町民K