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富士の湧水とともに生きる 都留市民の心意気
 

動かす   親しむ   極める  
2023.2.15

山梨県都留市は「富士の湧水のまち」として知られている。
市内には多くの湧出地点があり、そこでは富士山の火山灰や礫(れき)で濾過された良質な水が絶え間なく湧き出ている。富士山の斜面に降り注いだ雪や雨は、長い年月をかけて地層のフィルターをくぐり抜けるうちにミネラルを蓄え、清らかに研ぎ澄まされていく。
その水は地域の人々の暮らしを支え、豊かな自然と動植物を育み、それがこの地域の「人の営み」や「風土」を形作ってきた。

環境省より「平成の名水百選」に選定されたことで知られる都留市の十日市場・夏狩湧水群には、富士山の湧水地が10ヶ所以上あり、水温は年間を通して一定で、水量も豊富なことから、「水かけ菜」、「ワサビ」の栽培等に利用されている。

都留市特産「水かけ菜」

「水かけ菜」は聞き馴染みのない作物かもしれないが、この地域の伝統野菜で、その歴史は古く、明治の末頃から栽培されている。
お米の裏作として、冬季の水田に高畝を作って種をまき、湧水を引き入れ、かけ流し状態で栽培するため「水かけ菜」と呼ばれるようになったという。
通常、冬季は畑で育った野菜は凍ってしまうのだが、十日市場・夏狩湧水群の湧き水は年間を通して約12℃に保たれるため、冬季でも作物が栽培できるのである。
「水かけ菜」は限られた地域でしか栽培ができない貴重な野菜だが、厳冬期の収穫は農家にとっても大変な作業であり、現在、都留市で「水かけ菜」を栽培しているのは十日市場、夏狩地域の限られた農家のみとなっている。

 

近年、地元の十日市場自治会では、この「水かけ菜」の文化を絶やさないために、横浜市旭区の若葉台連合自治会と、種まきや収穫作業を通じた交流事業を行っている。
地元住民、都留市職員、若葉台連合自治会のメンバーで収穫された「水かけ菜」は若葉台で開催されるイベントで試食・販売されている。
この都留市と若葉台連合自治会の交流のきっかけは「水」のつながりから生まれたものだ。都留市を流れる桂川は、神奈川県に入ると相模川に名前を変え、相模湾に注いでいる。富士の湧水を集めた相模川の水は、神奈川県の給水人口の約6割に水道水を供給するなど河川下流地域の人々の生活を支えている。そして「水のつながりを人のつながりに活かしていこう」を合言葉に、約10年前に横浜国立大学の仲介もあって、若葉台連合自治会と都留市の交流が生まれたのである。
この取り組みは、富士の湧水がもたらす自然の恵み「水かけ菜」の継承だけにとどまらず、都留市民や河川下流地域の人々の関心を水環境に向け、流域ぐるみで水環境の保全にもつながる、素晴らしい取り組みだと思う。

若葉台連合自治会メンバーとの水かけ菜の収穫作業

 

もう一つ、都留市民と水との関わりに関するお話を紹介したい。

都留市には「定式(じょうしき)」と呼ばれる伝統行事がある。「定式」とは地域住民による河川や用水路の清掃や堆積土の浚渫作業のことであり、このような活動は農繁期の前に日本中いろいろな地域で見られるのだが、都留市の「定式」は、全市民一斉に数千人規模で行われるというから驚きである。
しかも、その歴史は古く、寛永13年(1636年)に谷村大堰が完成して以降、現在でも継続して実施されているのである。
歴史を調べると、当時の領主である秋元泰朝(あきもと やすとも)は谷村に城下町を構えたが、高台にある谷村地域は水の確保が難しかった。そこで田原の滝の上に谷村大堰をつくって取水し、水を谷村まで引き込み、城下町に用水路網を張り巡らせた。用水路網は稲作の用水としてだけでなく、紡績や織機の水車動力や、染めものの染料を洗うなど多様に利用され、人々の暮らしに大いに貢献したそうだ。
長年の間、都留市で「定式」が受け継がれているのは、おそらく水が市民の暮らしの身近なところにあり、地域の生活には無くてはならない自然からの貴重な贈り物であるという気持ちが、市民に根付いているからではないかと思う。

 

今回、富士の湧水と都留市民の営みについて調べ、感じたのは、
地域の人々にとっては、あって当たり前の“富士の湧水“かもしれないが、
「いつもそこにある豊かな水環境を、当たり前に思わず、大切にしながら共存していく」
都留市民の中には、そんな不変的な価値観や思いがしっかりと根付き、受け継がれているような気がした。

そろそろ、今年の「水かけ菜」の出荷も終わりを迎える時期である。
「いつか自分も都留市を訪れ、富士の湧水で育った「水かけ菜」を食してみたい」
そんな気持ちを強くした晩冬の候である。
活まち生花店 店員K

 

【参考URL】

○都留市ホームページ  平成の名水百選「十日市場・夏狩湧水群」
○道の駅つるホームページ  都留市特産 水かけ菜の販売が始まります
○若葉台自治体連合会ブログ  山梨県都留市で「水かけ菜」の収穫
○都留市ホームページ  定式について