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湯と梨と浜で、湯梨浜町。珍しい地名の由来に、想いを馳せよう。

まなぶ   親しむ   つくる  
2021.11.30

鳥取県中部にある、湯梨浜町(ゆりはまちょう)。羽合町・泊村・東郷町が合併して平成16年に誕生。
その名前は、「東郷湖から湧き出る温泉、大地がはぐくむ二十世紀梨、そして日本海に広がる白い砂浜」という新しい町の特色をイメージして名づけたもの。

湯梨浜町の東郷温泉湯梨浜町の二十世紀梨湯梨浜町の石脇海岸

・・・私はこの由来を初めて聞いたとき、「なんてわかりやすい地名だろう」と強く驚いた。

誰が聞いても、「温泉があって梨がおいしくて、砂浜がきれいなんだろうなあ」と一瞬で思わせることができるインパクト。1回聞いたら大まかなまちの特徴を記憶することができる覚えやすさ。もしかしたら、「先入観なしで地名だけ聞いて行ってみたくなるまち選手権」があったら優勝するかもしれないとさえ思った。

そして、もうひとつ同時に思ったことがある。それは、「ずいぶん珍しい地名の由来だな」ということ。

湯梨浜町は「平成の大合併」で誕生した町だが、その時の市町村名は、広域地名(例:山梨県甲斐市・甲州市など旧国名や郡名を使用)や方角地名(例:北名古屋市、南相馬市、西東京市など、方角+大都市・地方)、合成地名(例:小美玉市、小川町・美野里町・玉里村が合併)が採用されることが多かった。

湯梨浜町の場合はというと、瑞祥地名(ずいしょうちめい)の一種となる。めでたい意味の言葉をそのまま使ったり、良い意味の言葉から創作された地名のことだ。例えば、「栄」「豊」「美」のようにめでたい漢字を使用する、などがあるのだが、湯梨浜町は瑞祥地名の中でも特殊なパターン。まちの資源をかけあわせて市町村名にしているのは、かなり珍しいことのようだ。

瑞祥地名は、地名研究家からは「伝統的な地名を失わせている」という批判を受けることがままある。

以前、あるイベントで、湯梨浜町長が湯梨浜町の紹介するときに、「某テレビ番組で某ご意見番的芸能人に、湯梨浜町という地名はよくない!と言われた」というエピソードを笑い話で披露していた。どうやら、先述の地名研究家と同意見ということのようだ。

某芸能人や地名研究家の意見はもちろん理解しつつ、市町村の合併と名付けという一大プロジェクトにおいては、各自治体・地域で複雑な事情があるのだと思う。合併市町村同士の平等性や住民感情を担保する必要がある場合や、また地名はある程度限られた地点の名称であるため、合併でより広域となった地域を総称するにふさわしい名称がなかったりする場合など、伝統的地名のみを採用できない事情を考慮したい。

湯梨浜町は、東郷湖周地域合併協議会(羽合町・泊村・東郷町の合併に関する諸々を決める協議会)を中心に、住民アンケート等を経て、名称が決定された。この選択が後世にどのような影響を与えるかは、合併から17年経った現在でもわからないことは多い。

しかしながら、湯梨浜という地名は、湯気のたつ温泉、みずみずしい梨、さざ波の音の聞こえる美しい砂浜、というシズル感のある魅力的な資源を、脳内に即座に連想させる効果を持っている。あなたの頭の中にも、温泉、梨、砂浜が浮かんだのではないだろうか。

きっとこの地名は、多くの人を湯梨浜に向かわせる力を持っている。移住や観光、産業など、どこに影響が出るのだろうか。10年後、20年後に、想いを馳せる。

 

活まち新聞社 新人ライターS