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嗚呼、吉田うどん。都留市で気づいた食の楽しみ方。<後編>

たのしむ   動かす   まなぶ  
2021.7.13

さて、<前編>では、僕と吉田うどんの出会いについて語ったが、後半では「より美味しい食べ方」について説明したい。

吉田うどんのより美味しい食べ方、それは・・・その歴史を感じながら食べることだ。

なんだそんなことか、当り前じゃないか、と思うかもしれない。
しかしながら、都会に住む人は特にその傾向があると思うが、吉田うどんに限らず、料理の歴史に思いを馳せることなど、ほとんどないと思う。ありとあらゆる郷土料理を出す飲食店が立ち並び、普段3食も料理を口にするにも関わらず、である。
また、スーパーマーケットの野菜売り場や産直サイトなどで、「材料の」生産者の顔や生産過程に興味を持っても、「料理の」背景に興味を持つ機会は意外と少ないように感じる。

僕にとって、ひとつの料理の歴史について考える機会をプレゼントしてくれたのが、吉田うどんなのである。

さて話を戻して、歴史的背景を知ってから料理を食べると、3つのよいことがあると思う。1つ目は、地域の歴史を知ることができる、2つ目は、材料の豊かさを知ることができる、3つ目は、人々の伝統を知ることができることである。

ぜひ、吉田うどんを食べる妄想をしながら、文を読んでみていただきたい。
都留市にお店を構える、とてもおいしそうな吉田うどんの写真を何枚かここに掲載するので、参考にしてほしい。

山梨県都留市の本格手打ちうどん 荻窪山梨県都留市のうどん彩食きくや山梨県都留市の割烹 好浩

山梨県都留市の味酒房 伊万里山梨県都留市の山もとうどん

出典:都留市観光協会HP(https://tsuru-kankou.com/

1つ目、「地域の歴史を知ることができる」。
吉田うどんの主要産地である郡内地方(都留市や富士吉田市、大月市など)は、富士溶岩の影響で日本人の主食である稲作には向かず、主に大麦・小麦や雑穀の生産が中心だったため、元々すいとんやほうとう、うどんが多く食べられていた。江戸時代になると富士山参拝(富士講)が盛んになり、参拝客相手にうどんが売られ始める。江戸末期から昭和にかけては、絹織物が盛んな地域であった郡内地方では、特に女性が織物を、男性は行商をして生計を立てていた。男性は、養蚕や機織で忙しく絹糸に触れる女性の手荒れに気を使って、炊事を受け持った。そこで、男性らしい力強いコシのうどんを打ったのだった。

2つ目、「材料の豊かさを知ることができる」。
例えば、なぜ吉田うどんには馬肉がのっているのだろうか。それは、山梨県では全域的に、馬肉が料理の材料として根付いているからであるようだ。
山梨の馬は、約千年前から続くブランド馬肉。聖徳太子が甲斐国から献上された黒駒にまたがって奈良の都から富士山まで飛んだという「甲斐の黒駒伝説」や、有名な武田の騎馬隊、富士山の信仰登山の際の登山者の荷揚げ用に馬がたくさん飼われていたことなど、馬に関するエピソードは事欠かない。

最後に3つ目、「人々の伝統を知ることができる」。
昔から吉田うどんは「ハレの日」の行事食として出されることが多かったようだ。現在でも冠婚葬祭時にうどんでもてなす習慣があり、うどんが出てきたら終わりの合図で、結婚披露宴の最後にはうどんが出てくる家もあるらしい。その食べ方も、家庭によるものではあるが、大皿にうどんの麺を盛って、各々が箸で取り、手元のお椀のつゆにつけて食べることが多いそうだ。前述のように、稲作に向いていない土地の郡内地方ではうどんを食べることは日常的なことだが、ハレの日は小麦を大量に使う吉田うどん、ケの日は麺よりも野菜の量が多いほうとう、という区別が昔からある。

・・・いかがだっただろうか?うどんをこねる先人の姿、江戸時代の行き交う人々、駆ける武田騎馬隊、結婚式でうどんを食べる姿を想像すると、うどんが美味しく感じる気がするのは僕だけだろうか?

・・・さて、ここまで吉田うどん、吉田うどんと言っていたが、どうやら地元の人たちにとっては「吉田『の』うどん」が正しいようだ。讃岐うどん、水沢うどんなど、名だたるうどん達は「の」がつかないのになぜ吉田のうどんだけは「の」がつくのか?いくら調べても不明である。これはおそらく、地元の人たちに聞いてみるしかなさそうだ。しかし、次はいつ都留に行けるのだろうか。気軽に遠出して、うどんをすすることができる未来を願うのだった。

嗚呼、吉田うどん。改め、嗚呼、吉田のうどん、と、想いを馳せる。

活まち出版社 新人ライターS

<参考文献>
・にっぽんの郷土料理観光事典「【吉田うどん】とは?」(https://kyoudo.kankoujp.com/?p=190
・うどんの百科事典「吉田のうどん:山梨県」(https://udon.mu/yoshida
・ひばりが丘高校うどん部(http://udonkankoutaishi.client.jp/index.html
・農林水産省「うちの郷土料理」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/basashi_yama_nashi.html
・山梨県立博物館かいじあむ「企画展「甲斐の黒駒」」
http://www.museum.pref.yamanashi.jp/3nd_tenjiannai_14tokubetsu003.html