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空からふわり。鳥の目でまちを読み解く
第1回:都留市

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2021.8.24

――「景観」とは、自然にできたものと、人がつくったものの掛け合わせで出来ています。

そうおっしゃる、景観デザイナーの山田裕貴さん(株式会社Tetor代表取締役)に、Google Earthだけで、行ったことのないまちを読み解いていただくシリーズ。第1回は、山梨県都留市です。

それでは山田さん、よろしくお願いします。

山田裕貴

山田裕貴(やまだゆうき)

景観デザイナー/土木デザイナー。

1984愛媛県新居浜市生まれ、

2011東京大学大学院博士課程修了(博士(工学))、2016〜株式会社Tetor代表取締役、2021〜株式会社風景工房代表取締役

法政大学/国士舘大学/東京大学非常勤講師、甲州市景観アドバイザー、広場、橋梁などでグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞等を受賞

 

山田:よろしくお願いします。

まず、都留市全体を見てみましょう。かなり独特な地形ですね。

都留全景1

 

例えば富士吉田市には、まとまった平地がありますが、都留市にはなく、細長く続いています。

このように深くて細い地形は、川が地形を削った後にできた地形と考えられます。

しかも、この地形で都市化している、つまり多くの人が住んでいるのは、非常に珍しいです。人口は3万人ですか。

地形だけなら他にもあると思いますが、都市化と重なっていている点が珍しいと思います。かなり密度高く住んでいますよね。

都留全景2

 

結構、奥の方まで人が住んでいますね。

まちが線のようになっているので、この辺りとまちなかでは、暮らしも人の気質もかなり違うんじゃないでしょうか。

都留全景3

 

この、奥の地区ではゆっくりとした時間が流れているように思います。

都留全景4

 

都留市の地形全体を手に例えると、手のひらと指のようになっていて、一つ一つの指も、長く続いています。

指どうしが横につながっていないので、それぞれに独自性があるんじゃないかという気がしますね。

公民館や地区の設置、旧町村の境などがどうなっているのか、興味深いです。きっと先ほどで言うところの指単位で地区が形成されているのではないでしょうか。

それぞれの指と手のひらで気質や暮らしの違いがあるのか、どんな違いなのか、実際のところを、ぜひ知りたいです。

ゴルフ場がたくさんありますね。

新しいことを始めること、変えることに寛容なまちなのかな。

都留市のゴルフ場

 

鉄道がこう走っています。

初期の鉄道は、うるさいとか恐ろしいとか、住民から反対されることが多くて、街並みから離れたところに敷かれていたんです。この鉄道は中心市街地と少し近いので、開設も少し後かもしれません。

都留全景5

 

高速道路は、鉄道よりさらに新しいですね。山を突っ切っています。

都留全景6

 

ストリートビューで見ると、やはり、両側に山が迫っていますね。

山々に囲まれたこの風景は特徴的なので、都留市に住んでいる方は、よそに行ったり、帰ってきた時に、違うまちにいるな、地元に帰ってきたな、という感覚が、明確かもしれません。

それが地元への愛着につながって、愛着が強い方が多いんじゃないかという気がします。

一方で、どっちがどの方角なのか、東西南北などの方向感覚が分かりにくいですよね。

空間的に認識するというより、線的に移動する感じなんでしょうか。

もう一度引いてみますが、川が曲がりくねっているのが分かりますか。山もこれだけ近いので、曲がりくねりはある程度昔にできていて、今もその形が継続しているように想像します。

恐らく、地盤が固いためでしょう。そう考えると、都留市の地形は富士山の噴火と関係しているように推測します。溶岩か火山灰かは分かりませんが、噴火による堆積とその後、川(水)によって地形が削られたという地形の成り立ちです。

そうすると少し渓谷みたいに切り立っている可能性もあります。

また、こういった地形であれば、湧水が多いと思われます。

富士山の雪解け水が、相当長い時間をかけて、ゆっくりと出てきている水なので、色々な成分が豊かで、きっと美味しい水に違いありません。

都留全景7

 

意外と農地が少ないですね。

この辺りは田んぼですが、標高を見ると(Google Earthはマウスの位置の標高が画面右下に表示されます)右岸の方が高くなっています。右岸(写真下側)が切り立っているので、左岸に洪水が発生するんじゃないかと思います。

だから左岸が田んぼになり、家は洪水を避けて山際に建っている。

そう推測できるのですが、これは昔からそうだったのか、知りたいですね。

都留全景8

 

この辺りにまっすぐな道がありますが、こういうまっすぐな道は、人工的なものです。しかも狭いので、人々が歩いて移動していた時代(中世、近世)のものだと思われます。まちができる前に道があったのかもしれません。

今の道は車のためのものなので、ゆるやかにカーブしています。まっすぐだと車は走りづらいですよね。

都留市のまっすぐな道

あれ、このまっすぐな道は、ここで直角に曲がっていて、L字になっています。なんでだろう。

都留市のL字の道

富士山に向かう街道だったのかな。

あ、ここに大きな寺がありますね。奥にはお墓もある。

都留全景9

 

ストリートビューにすると、道が、この寺に向かっている感じもありますね。

道沿いに、家や店が並んでいますね。やはり富士山に向かう街道だったのかな。近世のまちという感じがします。

間口が狭くて奥に長い「うなぎの寝床」になっているのは、通り沿いを有効に使うための知恵です。

これは今の視点で見ると、地権者が多くて道幅も狭いため、開発しづらいということになりますが、一つ一つの建物の規模が小さいので、安くリノベしやすいとも言え、ストック活用やリノベに向いているまちなんじゃないでしょうか。

都留全景11

 

ここに市役所がありますが、この狭い、細長いエリアが密度の高い市街地になっているのは、恐らく、お城か何かが建って、その周りがまちになったからだと思われます。

地形的に、狭いだけに、ここを押さえれば人や物の往来を握ることができる重要な場所ですね。

都留全景12

 

これまで見てきて、都留市は、地形は厳しいけれど、その結果、交流や交易により栄えた、文化が豊かな土地なのではないかと考えられます。

標高が高く、冷たい水は稲作には向かないですから、農業より、街道で商売をするとか、外から来る人や物を受け入れ、相手にしてきたんじゃないでしょうか。

だから、「外の人を受け入れる風土」があるのではないかと思います。

確か、都留文科大学は都留市にあるんですよね。この規模で大学があるのはそういったことも背景にあるのかもしれません。

人をここに留めるのではなく、ここを「通る」こと、やって来る人との交流・交易の「場の力」を活かすのが、まちの特性に合うのかもしれないですね。

どこかのまちに関わる際に、現地調査前にはこのようにして、まちの事を調べたり考えたりします。Google Earthで調べるのはその一例ですが、地形やまちの成り立ちを知る上では結構参考になります。実際に現地調査をする際には、調べたり考えたりしたことを答え合わせしたり、新しくまちの重要な景観要素を発見したりしていきます。まちを知ることが、景観デザインの最初の一歩となります。

――山田さん、ありがとうございました。訪れたことのない、知らないまちを、Google Earthだけでここまで読み解けるなんて、驚きです。

山田さんが「知りたい」とおっしゃっていた点を調べて、次回、ご報告したいと思いますので、お楽しみに!

活まち大学大学院 院生C

<次回はこちら>

画像・リンク 引用元:Google社「Google マップ、Google Earth」