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「生涯活躍のまち・つる」という理想郷(前編)
 

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2023.4.21

私が山梨県都留市に関心を持ったのは、あるテレビの報道番組がきっかけだった。
そのときの番組のテーマは、
「理想郷か、姥捨て山か、シニアの大移住計画」
たしか今から約7年前、平成28年の4月頃に放送されたものだと記憶している。
何故、そんなマニアックな番組内容を放送時期まで覚えているかというと、ちょうど放送があったのと同時期に、地方創生の現場に携わっていた自分にとって、エポックメーキングとなる法律改正があり、番組がそれに関連する内容であったため印象に残っているのだ。

その法律は、平成28年4月20日に改正施行された地域再生法のことであり、改正内容は以下の3点であった。
1点目は、地方創生推進交付金の創設
2点目は、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設
3点目は、「生涯活躍のまち」の制度化

3点目の「生涯活躍のまち」こそが、番組のテーマとなった「シニアの大移住計画」のことである。
「生涯活躍のまち」は当初、「日本版CCRC」とも呼ばれ、都市部の介護問題や地方の人口減少問題解消の切り札として、政府主導で進められた施策である。
「CCRC」とは「Continuing Care Retirement Community(高齢者が元気なうちに入居し、終身で過ごすことが可能な生活共同体)」の略であり、アメリカが発祥のものである。実際にアメリカでは、2000カ所のCCRC施設に約75万人の高齢者が生活しており、その市場規模は3兆円とも言われている。

 

日本版CCRC構想有識者会議資料(平成27年6月)

そんなアメリカ版CCRCの事例等を参考にしつつ、我が国においても平成27年2月より、政府が設置した有識者会議において日本版CCRCについての検討が始まり、平成27年6月には日本版CCRC構想(素案)が公表された。
そこでは、日本版CCRCについて「東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」を目指すと定義された。
また、日本版CCRC構想を進める意義として、①高齢者の希望の実現、②地方へのひとの流れの推進、③東京圏の高齢化問題への対応、の3つが挙げられた。

しかし、③東京圏の高齢化問題への対応、の部分が必要以上に強調されて報道されたこともあり、日本版CCRC構想について「姥捨て山」というネガティブな印象を持つ自治体が多かったことも事実である。

そんな黎明期の「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」であるが、都留市では国の動きよりも早く、平成25年には「シルバー産業の構築・推進」について検討が始められていた。
そして、平成27年には、庁内組織として「大学連携型都留市版CCRC推進班」が設置され、「シルバー産業の構築・推進」と軌を一にする「生涯活躍のまち・つる」事業として、都留市版「生涯活躍のまち」基本計画の策定、「生涯活躍のまち移住促進センター」への出展、「つる知るツアー」の開催等の取組が開始された。
実際に先述の報道番組の中で、都内にある「生涯活躍のまち移住促進センター」で、都留市の担当者に対し熱心に質問する中高年齢者の方の姿や、「つる知るツアー」に多くのシニア層の方が参加している様子が放映されていたことを記憶している。

そして平成28年には、そんな「生涯活躍のまち・つる」の先駆性が評価され、国の「生涯活躍のまち支援チームの対象とする地方公共団体(先行事例)」の7団体の1つ(当時)に選定された。まさに都留市が「生涯活躍のまち」のトップランナーとしての地位を確立したと言える出来事である。

サービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る都留」

令和元年9月には、単独型居住プロジェクトとして進められてきた旧雇用促進住宅を改修したサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る都留」がオープンした。
「ゆいま~る都留」ではオープン時点で、全80戸のうち、56戸の入居が決定済みと好調な滑り出しを見せた。これは「都留市でどうやって暮らすか」を話し合う「生涯活躍のまち・つるをつくる会」や「つる知るツアー」等を定期的に開催し、約4年をかけて参加者のニーズを把握してきた成果と言えるだろう。

さらに現在、都留市では複合型居住プロジェクトが進行中である。これは、都留文科大学周辺の約10,000平方メートルの市有地に、民間企業によるサービス付き高齢者向け住宅、市による子育て支援施設やシェアオフィスなどを兼備した地域交流拠点施設、大学の関連施設等を複合的に配置することで、多世代が楽しみながら生活できるエリアとして整備していく、まさに「生涯活躍のまち・つる」の集大成と言えるような事業である。

ここまで前編では、「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」の取組が国内で導入された経緯や、都留市が進めてきた「生涯活躍のまち・つる」の取組内容等について紹介してきた。後編では、都留市の「生涯活躍のまち」について何がすごいと感じるのか、私の感想を踏まえ紹介したいと思う。

 

活まち生花店 店員K

 

【参考】
〇都留市ホームページ 「生涯活躍のまち・つる」事業について