江戸時代から続く「郡内織」。この伝統の織物を未来へ残そうと奮闘する人々がいます。“傘作り”を入り口に「織物で都留を元気に!」と始まったこの活動、人の輪も広がり進むべき道も見えてきました。このレポートではイベントの様子を通して、郡内織の歴史や都留のまちづくりに取り組む人々の姿をお伝えしていきます。
富士山麓に位置する湧水のまち山梨県都留市。城下町として栄えたこのまちは、3つの大学を有する学生のまちでもあります。イベントの冒頭では、そんな歴史と新しさが共存するまちの様子を、都留市企画課 政策推進担当の山本さんが紹介していきます。
東京にも富士山にもほど近い都留市。この距離感が江戸時代の織物文化にも一役買っている。“つる”は今も昔も“ちょうどいい場所”。 |
“城下町”の副駅名を冠する「谷村町駅(やむらまちえき)」。今ではめずらしい“構内踏切”のある駅舎は木造の平屋建てで、国の登録有形文化財でもある。山本さんのおすすめは夜の駅舎の佇まい。 |
谷村駅から徒歩5分、「商家資料館」は大正10年建造の絹問屋。都留市有形文化財で、絹の取引や当時の日常生活に関する品を多数展示。近くには博物館「ミュージアム都留」もあり、問屋の風景を辿りながら織物の歴史に触れることができる。 |
都留市のユニークな取り組みが「デジタル都留市民」。まちに興味をもった人がデジタル都留市民となってまちづくりに参加する。facebookグループから誰でも参加可能。 |
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ここからは、郡内織(ぐんないおり)の歴史について、都留市企画課 企画担当の知念さんが解説していきます。知念さんはミュージアム都留の学芸員として郡内織の展示にも携わったことがあるエキスパート。織物にまつわる興味深いお話が繰り広げられていきます。
江戸時代に始まった郡内織は、都留、大月、富士吉田などからなる郡内地方独特の織物。“郡内縞(ぐんないじま)”をはじめいくつかの種類があり、甲州ぶどうと共に人々に知られる人気の特産品となった。写真は井原西鶴の浮世草子に登場する“郡内縞”の一節。 |
明治に入ってからは「甲斐絹(かいき)」として国内はもとより海外にまで販路を拡大。日本公式初参加となる1873年のウィーン万博では、都留市の銅屋(あかがねや)与次衛門らが「絵甲斐絹」を出品し進歩賞を獲得した。 |
甲斐絹は市井に広く浸透し文芸作品にも度々登場する。しかし戦後は生産者の多くが織物業から機械工業へと職を変えたため、家に一台ずつあった織機も廃棄されていく。その中で「織物を続ける」ことを選んだ生産者は新しい事に挑戦しながら郡内織の伝統を今に伝えている。 |
「私が甲斐絹に関する展示をミュージアム都留で開催した時、市民の方が自分達でイベントを企画したり『こういう織物があるよ』とおっしゃってくださる方が非常に多かったんです。」 知念さんは当時をそう振り返ります。「昔から甲斐絹というものがみなさんの馴染みの中にあったという事がわかりました。」
まちに受け継がれる郡内織の記憶。歴史を紐解くことで「織物のまち・都留」の姿が見えてきます。
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ここまで、まちを知り、織物の歴史を辿ってきました。次はいよいよ郡内織の現場です。登場するのは郡内織の中でも「ほぐし織」を手掛ける天野商店の天野さん。伝統技法ともいわれる「ほぐし織」について写真や動画を交えて説明していきます。
仮止めした縦糸を捺染(なっせん:型を使った模様染め)した後に「一度ほぐしてから」織り上げるのが「ほぐし織」。写真は捺染の様子。奥行きおよそ20m、色の数だけ丁寧に染め上げていく。 |
染め上がった縦糸を高温の圧力釜で蒸すことで鮮やかな色が現れる。元々は桐生で柄をつけてもらっていたが「都留でも出来ないか」と工房をつくり、自ら染める様になった。 |
仮止めの糸を手で外しながら織り上げていく工程。注目は「型染めした縦糸」の下に見える「赤い縦糸」。先染めした二種類の縦糸が「おもて面は柄、裏面は赤」という「ほぐし織り」ならではの生地を生み出していく。 |
伝統のほぐし織だけではなく、傘作り職人でもある天野さん。「生地は一杯ある。傘が作れたらどんな風に自分が変わるかなと思って…」 傘作りのきっかけについてそう話します。「地元の生地を使って『made in 都留』という名前で発信できたら嬉しいなと思っています。」
そこには、郡内織の伝統を守りながら新しい事に挑戦していく職人の姿がありました。
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さて、イベントは郡内織りの「過去」「現在」と進んできました。次は「未来へ向けた挑戦」です。一般社団法人まちのtoolboxの小川さんが『ほぐし織の伝統を未来につなぐプロジェクト』について説明していきます。
「織物のまち・都留」としてまちの活性化を目指すこのプロジェクト、最初に取り組んだのは「手作り洋傘教室」。ミニチュア傘作りからはじまり、日傘、雨傘とステップアップしていく。 |
教室は“ネットショップ開設”や“商品撮影”など、傘作り職人に必要な講座を交えながら進んでいく。写真は扱いの難しい専用ミシンを前に「どうやったら上手く縫えるんだろう?」と話し合う受講生達。 |
プロジェクトは教室の中だけにとどまらず、クラウドファンディング※へと発展。「これからの時代に即したものづくりをしていかなくちゃいけないと私たちは思っています。」 大切なものを大切な人へ。伝統産業を通してまちづくりの輪が広がっていく。※ 2021年10月15日現在、クラウドファンディングの募集は終了しています |
「子供の頃は近所から機織りの音が聞こえてきた」「郡内織の歴史を途絶えさせたくない」受講生の思いに触れたことで企画した小川さん自身も勉強になったと言います。「この文化、そして担い手になりたいというこの気持ち、これを大切にしていかなくてはいけないな、そうあらためて思った半年間でした。」
小川さんの熱い挑戦はこれからも続きます。
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イベントの最後はトークセッション。チャットを通して質問が飛び交います。
左上段から右に、小川さん、MCの鈴木さん、天野さん、知念さん。「やっぱり織物っていいじゃないですか」 そんな天野さんのひと言が参加者の心に染みていく。東京オリンピックの聖火ランナーも務めた天野さん、そこには「都留の産業である織物の灯を消したくない」という思いがあったという。 |
トークセッションでは、郡内織の技術や歴史、「工房を見学したい」という関わり代の話まで様々な質問が寄せられます。
「こうやってイベントに参加していただくだけでも非常にありがたいと思います」と小川さん。「郡内織を知っていただける、応援していただける。そして自分も作ってみたい、使ってみたい。このプロジェクトがそんなきっかけになればいいなぁって思っています。」
実は、小川さんは東京からの移住者。冒頭に登場した山本さんや知念さんも、かつて都留文科大学に通っていた県外出身者です。こうやって移住者がまちづくりに関わっているのも、ウェルカムで活発な地域性をもつ都留ならではの光景でしょう。
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歴史と新しさが共存し、移住者に寛容なまち、都留。
人と人で紡ぐ伝統産業のこれからを、あなたも一緒に作ってみませんか?
シネマ活まち映写室より